面接官がダメと感じる「体裁だけが素晴らしい受け答え」
あたかも舞台あいさつをするような、完璧すぎる受け答えをする方と面接をすることはよくあります。
私は「スポットライトが当たると輝くタイプ」と呼んでいますが、体裁ばかり優先していてどこかはぐらかされた気持ちになります。
今回は、そんなタイプの典型的な方と面接をしたときの体験をお話したいと思います。
- 執筆者の情報
- 名前:永井 成果(仮名)
性別:女性
現在の年齢:47歳
面接の経験人数:約500人
面接経験時の役職:-
企業・業種:-
面接前の待機中に見た素顔
面接官は、実は面接ルーム以外でも求職者を観察しています。
隠しカメラを設置しているなんてことはありませんが、例えば面接ルーム前で待機している時のしぐさや雰囲気も、通路を通った時に‘チラ見’することがあります。
緊張しながら待っている時の様子は素顔がのぞけて参考になります。
ある時、面接ルーム前で待機中の女性を見ると、なんとも言えない寂しげな表情に驚きました。
事務職募集でしたが、チラ見では「あんな暗い感じはちょっとダメだなぁ」と思いました。
そして彼女の順番が回って来ました。
面接官席で待ち構えていた私は、満面の笑みをたたえて入室してきた彼女を見てビックリしました。
先ほど通路で待機していた時の暗い表情とうって変わって明るい表情をしていたからです。
舞台あいさつを思わせるキレ
入室するやいなや面接官3人に平等に目配せをし、一礼をした後、
「はじめまして!○○と申します。本日は大変お忙しい中、面接の機会を作っていただき本当にありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します!」
と、舞台あいさつを思わせるようなキレで最初のあいさつをしました。
言葉のキレもさることながら、礼の仕方、手の位置、腰の曲げ具合、どれをとっても素晴らしく、美人であったこともあり面接官3人はちょっと気おされてしまいました。
平静に戻り、自己PRや志望動機など用意した基本的な質問をいくつかしたのですが、いずれも応答内容はまずまずでした。
とにかく反応が良く、「え〜っ」とか「あの〜」とか無駄な言葉なく的確に答えが返って来ました。
他の面接官が思わず、
「いや~、すごいですね!テキパキと答えていただけるので、質問のしがいがありますよ。前の職場では話し方について厳しく指導されたのでしょうね!」
と、半分ちょっと持ち上げ気味に発言すると、
「はい!ありがとうございます!そう言っていただけると大変うれしいです。やはり、お客さまとのコミュニケーションで良い印象をもってもらうには、笑顔と気持ちよく返事することは大切だと常々教えていただいておりました。」
私的には、あまりすらすらと言うものだから、セリフでも覚えるように練習したのだろうか思いました。
なんだかはぐらされたような気が・・・
面接の中盤に差し掛かり、ちょっと難しい質問に移りました。
当社の扱い品目の工業原料に関する質問です。
「先ほどの志望動機で、当社の事業に興味を持ったというお話がありましたが、どのような点に興味を持たれたのでしょうか?」
と尋ねると、答えはこうでした。
「大変申し訳ございません。化学系の会社であることは承知しておりますが、そちらの方面にはあまり知識がなく、ご質問に対してお答えができずに本当に申し訳ありません。」
というものでした。
彼女のスパッとした返答に、他の2人の面接官は、うんうんとうなずきながら「仕方がないよね〜」という感じに見えました。
確かに学校は文科系だし募集職種も事務なので、まさか工業原料の化学的なコメントは期待していませんでしたが、なにかはぐらかされたような嫌な気がしたのも事実です。
彼女の真の性格は?
「では、ホームページなどもご覧になっておられないわけですね?」
「はい、申し訳ございません。最近忙しくてパソコンの前に座る機会がなく、ついつい見られずでした。帰りましたらぜひ、拝見させていただきたいと存じます。」
「それはいいのですが、何をご覧になって当社の事業に興味を持っていただいたのでしょうか?」
「はい、いろいろ事業を広く展開されているとお聞きしており、御社でなら安心して働かせていただくことができると思い志望させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。」
と、またまたはぐらかされてしまい、勝手にエンディングにもっていかれました。
ただ、最初に感じた舞台あいさつのような口上や話す時の凛とした表情や態度、笑顔は最後まで変わりませんでした。
面接後の面接官の評価
面接が終わると彼女は深くお辞儀をし、「面接していただいて本日は本当にありがとうございました」という言葉を礼儀正しく述べて退出していきました。
さて、残った面接官3人はふーっと大きくため息をついた後、
「ちょっとダメですね〜。」
という意見で全員一致しました。
私なりの面接経験から、他の面接官にこんなコメントを言いました。
「彼女のようなタイプは実はよくいるタイプで、これまでも何度か経験があります。いわゆるスポットライトが当たると輝くタイプです。
面接が始まる前に彼女をチラッと見かけたのですが、今の雰囲気とは打って変わって沈んだ暗い感じでした。
それが、面接ルームに入ってくるとテンションが一気に上がり、あのようなはつらつとした応答ができるのだと思います。
逆に、スポットライトがなかったり、仕事自体があまり注目されずコツコツと地道にこなしていかなければならないときに、手を抜かれても困るわけです。
場面に応じて適切な応対ができれば問題がないのですが、変わりようが極端に見えると、人間の表裏を見るようで嫌なものです。
そして、彼女の一番の問題はホームページを見ていないにもかかわらず、言葉の言い回しで答えをはぐらかしていることです。
見た見ていないが問題ではなく、質問に対してまっすぐに答えず“体裁が優先”しているのではないかと思います。」
なんとなく感じていたこと
私のコメントを聞いて他の面接官は納得してくれました。
他の面接官は待っているときの状態を知りませんでしたが、「わかるような気がする。なんとなく感じていた。」と言ってくれました。
面接はよく「人は表面だけでなく多面的に見よう」と言いますが、今回の例は特にそれを感じました。
結論は不採用ですが、当社の募集の事務・受付職種に向いていないだけで、ぴったりする他の仕事は必ずあると思いました。
この記事の筆者
永井 成果(仮名)
企業で何人も転職者の面接をしてきました。
その後、私自身が転職し、今度は反対にその経験から転職者を支援する仕事もしました。
企業の面接経験では、こんな人は絶対受からない、逆にこういう人は非常に好感を持たれ面接をパスできる人だというのがよくわかり、一方、支援する仕事ではそれを転職者にアドバイスしてきました。
この両経験から、転職者の役に立つ体験談とヒントを紹介したいと思います。