誰が上げているの?夏祭りの花火

皆さんは夏祭りで花火を見に行ったことはありますか?露店が出ていて、暑い夜に浴衣を着て出かけた事はありますか?又、その花火は一体誰が上げているか考えた事はありますか?

花火会社は家業として継がれているものと思われている方も多いと思います。半分正解で半分は間違いです。つい最近までセーラー服を着ていた普通の女子高生だった女の人が上げている事もあるのです。

体験者の情報
名前:山本 春奈(仮名)
性別: 女性
年齢: 32歳
業界(歴): 製造業・イベント業(12年)
業種(歴): 花火屋(12年)

花火会社へ就職

巷では花火を上げる人を花火師と呼んだりしますが、実際働いている人はあまりその様な呼び方をしません。就職活動でも“花火師・求人”ではなかなか出てきません。

特別なツテがあって面接まで辿り着くかと想像される事も多いです。花火工場があるのは田舎の地域になります。工場には沢山の火薬が保管されているので住宅街に工場があると危険だからです。

その工場のある地域では特に商業系の高校に求人を出したりしています。私の場合は都会の普通科の学校でしたので求人なんてありません。自分で花火会社の一覧を探し、手当たり次第に電話をして就職を希望しました。

運良く4社目で面接、就職が決まりました。

働いている人たち

私が就職した工場は従業員男性4,5名、女性4名でした。工場内には常時10名未満のスタッフが働いていました。身内の方が2,3名を占めており、他は親族でも無い人が雇われて働いていました。

男性の年齢は26~35歳、60歳代、女性は60~70歳でした。長年、花火に携わっているのは身内のみで特に女性の方は50歳後半になってから働き始めています。

話を聞くと花火屋の身内の近所に住んでいるという理由で声がかかったようです。夏場の現場になると多くのスタッフが雇用されます。その時期だけ花火屋になるという事です。

夏場だけ花火に携わる人

多くの方は普段運送業に従事している人でした。他にも神主、大工さん、学校の先生等です。ほぼ毎年同じ顔触れが揃います。運送業、大工さんの親戚の方も来られていました。大体30名程います。

全員が一か所の現場に集う事はありません。雇用の形は知り合いを紹介したりする形で決まっていくようです。

初夏になると今年も宜しく、と言う意味を込めて社長(女性、70歳)に菓子折りを持って色んな人があいさつをしに工場に来られます。平均年齢は高いです。全員男性で60歳代の方が多くを占めます。

基本的に気性は荒く、言葉使いと人使いは荒いです。普段から体を動かしている職種なので力は強く体は引き締まっている印象です。最近は高齢の方の体力の衰えと認知症みたいな症状が目立ちます。

周りの噂を聞いて社長は翌年から雇用を外します。

一年の流れ

当然ですが、夏場が稼ぎ時です。初夏を迎える頃から準備が始まります。金額と花火を上げる場所により花火の種類をどのように見せるか、プログラムを組みます。それが出来れば、それらの玉を準備し玉に火薬を付けます。

夏にピークを迎え、秋祭りがあり、たまに冬場のイベントの依頼で花火を上げに行く事があります。花火の工場で一年中働いているスタッフは、夏は現場に行き、他の季節は自社の玉を作っています。

会社にもよりますが、わが社では3~4号の玉を作っています。玉の中に入れ花火として光る火薬を星と言います。その調合も自社で行っています。他にもナイル川(銀滝)、立て火、イラストの花火です。

自社で作れない物は購入しています。購入先は日本の他の会社や中国産の物です。

祭りの一日のスケジュール

近場で普通の花火大会なら前日の夜から出発し、当日朝早くから準備出来るようにします。花火の規模によっては一日で仕込みが出来ない場合もあるので前々日から準備をする事もあります。

又、花火を上げる場所は地上だけではなく、船の上や中州で上げる事もあります。朝は5時から起床しコンビニのおにぎりを食べて準備が始まります。まだ日が出ていない内に準備を始めます。

合間に休憩を取りながら、作業の進み具合を見て昼の14時頃から少し昼寝休憩になります。昼寝が終われば夕方まで又準備が始まります。その日は車で寝て翌日も朝から作業開始です。

夜の花火の時間に間に合わす為に必死になり動いています。

祭りが終わってから

花火は大体1~2時間程度で上げ終わります。最近では電気で上げる事も多いですが、昔から花火に携わる人は自分たちで直接点ける方が疲れは吹っ飛ぶ、と言い好みます。花火が終われば片づけです。

花火の玉の殻もある程度掃除をし、燃やして帰ります。花火を上げる筒は花火の玉のサイズにより1本~10本の束になっています。鉄で出来ており、かなりの重さになります。暗闇での作業になるので視野も狭いです。

普通の花火大会ですと21時頃から片づけをし、1時までには帰路に向けて出発出来ます。大きな花火大会だと3時頃までかかる事もあります。他の花火大会もあるので場合によっては眠らずに次の現場に移動します。

花火の後片付け

流石に60歳を回った女性は頻回には現場には行きません。その方は工場で戻ってきた花火の後片付けがあります。使用した筒は火薬で真っ黒に汚れています。次の現場に回すので、それまでに洗って乾かさなくてはなりません。

花火の材料は玉だけではなく、音の鳴る笛、火を点けるランス、色を添える星と雷、筒を縛る綱、スターマインで使用する速火線等が混在しています。それらをきれいにし、又使えるものは直ぐに出せるように片づけます。

お勧めの見方

花火はどこで打ち上げるかで使用できる花火の種類も大きく変わります。お勧めは何といっても海や川の近くの花火大会です。海の上で上げる花火大会だとよく垂れる柳等を使えるのでとてもきれいです。

又、地上では上げられない水中花火といい、半分水に浸かっている花火を上げる事も出来ます。他にも上げている真下で見る事が出来るのなら、一味違った花火を見る事が出来ます。

4号の花火でも真下で見れば、視界一面が花火一色になります。後は風上で見るのは絶対です。風がない日は煙で花火が見えません。

花火屋さんの飲み会

飲み会はほとんどありません。工場のスタッフで秋頃に飲みに行きます。完全に先輩が払う習わしになっています。お酒は好きで強い方が多いです。夏祭りの間も花火がない日は先輩が後輩を呼んで飲みに行ったりします。

地元の秋祭りは漁師さんが主催で行う花火大会があります。それが終わると花火大会は終了という感じです。この日はなるべく多くのスタッフを仕事に呼び、昼の休憩には皆でお酒を酌み交わします。

まだその日の花火は終わっていませんが実質その時が飲み会になっています。

花火屋の給料

スタッフや花火の材料を運ぶスタッフや自分の車を出すスタッフはその分の手当ても付きます。我が社では手渡しで給料をもらいますが、ベテランになると二つに折れない位入っているとの事です。

私は女性なのであまり現場に行きません。車も乗せてもらっています。入社して3年目の時で、現場3か所位行って手取り22万円程度です。恐らくかなり少ない印象を受けると思います。

因みに普段は14万円程度で、家賃は2LDKで3万円の地域です。田舎なので給料も安いです。

必要な資格

必要な資格は特にありませんが、運転免許は必須です。無くてもどうにかなりますが、あった方が断然いいです。入職してから取るように言われたのは火薬類取り扱いの資格で乙種です。比較的容易に取る事が出来ます。

従業員に数人は持っていた方がいい免許です。体力は必須です。力を使う仕事になります。後は感性です。美的感覚が必要です。

工場の中

工場は山の麓等、住居がほとんどない所に建っています。工場内は広い敷地の中に作業部屋と倉庫が点在しています。作業部屋は4面の内2面の壁は開き、爆発の時に火の手が上に抜けるようになっています。

倉庫の前には簡易ですが、塀がありもし爆発が起こっても最小に留める様に設置されています。広い敷地の一角には玉や星、火薬を干す干場があります。全ての敷地内は最低限の電気しか使用する事が出来ません。火器は厳禁です。

火薬に燃え移るのを予防するためです。敷地内は山を開拓したような所にあります。夏には蚊が飛んでいますが、蚊取り線香は火の物も電気の物も使用禁止です。

夏以外の一日の流れ

朝は8時から仕事開始です。星を作る人は星を作り、玉に星を詰める人はひたすら星を作り、玉の作成をする人は一年の殆ど玉貼りをしています。雨が降ると星を干せないので星作りは出来ません。

立て火を作ったり、他の作業をしています。12時に昼食を採り、15時頃に煙草を吸う人だけは休憩をしています。時折社長がお菓子を持って来てくれます。17時まで仕事を続けます。サービス残業などはありません。

まとめ:

花火屋に就職すると夏祭りには浴衣を着て参加する事は出来ませんが、夏の風物詩を作り出している職業です。肉体仕事と美的感覚が必要になります。又、玉を作成する時には指先の繊細さが求められます。

全てが手作業で夏は暑く、冬は寒い仕事ですが、誇りを持って取り組む事の出来る職業です。

この記事の筆者

山本 春奈(仮名)
高校を卒業して地方の花火工場に就職しました。就職先は何のツテもない工場です。高校は普通科で高校2年生の頃に花火屋さんに就職しようと考えました。実際に面接等に行き始めたのは高校3年生の時です。それまでは至って普通の学生生活を送っていました。

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