転職したい人が知っておくべき海外旅行添乗員の実情。

添乗員(ツアーコンダクター)という仕事を知っていますか?添乗員とは、旅行会社が企画するツアーに同行して、その旅程を管理する人のことです。

これだけ聞くと、「旅をしてお給料がもらえるなんて楽しそう!」、「世界中を飛び回っていて何だか華やかそう!」などのイメージを持ちますか?

いえいえ、実際にはそんなに甘く華やかではありません!現場では体力勝負の何でも屋さんです。さて、それでは添乗員の実態について紹介します。

執筆者の情報
名前:藤井りえ(仮名)
性別:女性
年齢:45歳
業界(歴):観光業(23年)
職種(歴):ツアーコンダクター(18年)

添乗員って?

上で述べたように、添乗員の基本的な仕事は、旅行会社が催行する国内・海外のツアーに同行して、旅行会社が計画した通りにツアーを進行すること、つまり「旅程管理」です。

添乗員として、主催旅行(いわゆるパッケージツアー)に添乗する場合、「旅程管理主任者」という資格が必要になります。

この資格の取得方法については、一般社団法人 日本添乗サービス協会(通称TCSA)のHPなどで詳しく知ることができます。特別難しい試験ということはなく、合格率がとても高い資格ですのでご安心を。

さて、添乗員の働き方についてですが、これは大きく分けて3パターンあるといえます。国内旅行添乗員、海外旅行添乗員、そして国内・海外のどちらもこなす添乗員。

どのパターンで働くかは、自身の希望はもちろん、所属する会社の仕事内容によるところが大きいです。筆者は海外旅行添乗員をしており、ここでは海外旅行添乗員について書いていきたいと思います。

実は添乗員の多くは派遣です

添乗員は旅行会社の社員だと思われている方も多いかも知れません。しかし、実は添乗だけを仕事にしている場合、そのほとんどは旅行会社ではなく添乗員派遣会社に所属している派遣添乗員なのです。

つまり、ツアー毎に取引先の旅行会社へ派遣されていく、一種の専門職というわけです。このように添乗だけを生業にする人は、通称「プロ添」と呼ばれます。

もちろん、旅行会社の社員が添乗をするケースも少なからずありますが、その場合ほとんどは、添乗だけが専門ではなく、企画・手配・営業など添乗以外の業務もしています。

添乗するツアーはどのように決まるの?

ツアーの催行が決定されると、旅行を主催する旅行会社から添乗員派遣会社宛に添乗員派遣の依頼が入ります。それを受けて、派遣会社は自社に登録している添乗員の中からその依頼に相応しい添乗員を選任します。

そこで私たち添乗員にお仕事の依頼が入るわけです。

添乗員派遣会社各社には「アサイナー」と呼ばれる、その名の通りツアーを添乗員に割り振る(アサインする)担当者がいて、添乗員はアサイナーとのやり取りで仕事が決定していきます。

添乗するツアーが決定する時期は、繁忙期や閑散期によっても変わりますが、だいたいはツアー出発日の2か月前~3週間前というケースが多いです。

自分が出るコースが決まったら、添乗員はその国についての知識を深めるために、資料を集めたり、調べたり、まとめたりして準備をします。

また、特定の語学に長けていたり、何か専門的な知識があったりすると(例えば美術・音楽・歴史・宗教・ワインの知識など)アサインの幅が広がります。

プロ添の具体的な仕事内容は?

1本のツアー毎に、大きく分けて3つの業務でワンセットです。それは、出発前の打合せ業務、ツアー添乗業務、帰国後の報告・精算業務です。

打合せ業務とは

ツアーを催行する旅行会社に出向き、添乗指示書を確認しながら、自身の添乗するコースを把握します。

コース内容、利用航空会社、お客様の人数、ホテルやレストラン・列車やバス等の手配状況の把握、添乗携行金やバウチャー・クーポン券の受け取りなどが主な業務ですが、近年では、出発前に添乗員が自らお客様宛にお電話を差し上げる「添乗員コール」を設けている旅行会社も多く、これは打合せ時の大きな業務のひとつです。

ツアー添乗業務

空港でお客様をお迎えしておこなう受付業務から始まり、フライト中のケア、バスの中でのご案内、ホテルのチェックイン・チェックアウト、レストランのメニュー確認など、帰国までノンストップで業務が続きます。

特にツアーのメインとも言える観光については、大都市など現地日本語ガイドがいれば問題ないのですが、英語ガイドしかいない場所では、その通訳業務をしなければなりませんし、移動途中で立ち寄る小さな町や村などでは、ガイドすらいない場合もあります。

そんな時はは添乗員がある程度の観光案内をしなければなりません。また、トラブル対応も添乗員の重要な業務です。

ツアー中に病人やケガ人が出て病院にお連れする場合もありますし、貴重品やパスポート等の盗難や紛失で、警察や、場合によっては大使館や領事館に行かなくてはならないようなトラブル処理もあります。

また、悪天候で飛行機が飛ばない、突然のストライキで乗り物が動かない等、予想もできないようなことがいつ起こるか分かりません。無事に帰国するまで、添乗中は一切気が抜けません。

帰国後の報告・精算業務

ツアー帰国後は、旅行会社に出向き、添乗日報やトラブル報告書などを担当者に提出し、ツアーの報告業務をします。また、精算書の作成や添乗携行金の精算業務も行います。

併せて、添乗員自身が所属する派遣会社にもツアー終了の報告をします。

ツアー中の食事は?

基本的にお客様と同じものを頂きます。そのレストランの味付けや量、サービスを確認するのも大切な仕事のひとつです。問題がある場合はランドオペレーター(現地手配会社)や、主催旅行会社にきちんと報告しなくてはなりません。

ツアー中のメニューには通常、その土地の名物メニューが組み込まれていることが多いです。たとえばパリではエスカルゴ、ロンドンではフィッシュアンドチップス、ドイツではソーセージといった具合です。

でも正直、添乗員は何度も同じツアーコースに出て、同じレストランで同じメニューを食べているので、心の中では「もう飽きた~、違うものが食べたい~」と嘆いていることもあります。もちろん声には出しませんが・・・。

観光はできるの?

基本的にはお客様と一緒に観光します。現地ガイドがいる場合の観光は、ガイドさんに前を歩いてもらい、添乗員は一番後ろを歩きます。

グループからはぐれてしまう方が出ないように気を配り、また観光中のお客様は無防備になりがちですから、観光客を狙ったスリなどがグループに近づかないように常に目を光らせておかなければなりません。

もちろん、カメラマンの役目をするのも大切な仕事です。

他にも、バウチャーを入場券に引き換えたり、トイレの場所を確認したり、駐車場などでは数あるバスの中から自分たちのグループのバスを探したり、具合の悪くなったお客様に寄り添ったり・・・。

また、現地ガイドがいない町での立ち寄り散策となれば、添乗員が先頭を歩いてご案内しなくてはなりません。それが、たとえ自分自身が初めて行く場所であったとしてもです。

ですので、ゆっくり観光というわけにはなかなかいきません。

どんな人が添乗員に向いているの?

もちろん、語学に長けているに越したことはありませんが、本当に大切なのはパーソナリティやホスピタリティ・マインド(おもてなしの心)です。

お客様は本当に様々です。無理難題をおっしゃる方、団体旅行の自覚がない方、常に攻撃的な方、逆に自己主張を一切されない方etc・・・。

どんなお客様にも対応できる温かさと、そして図太さがなければ添乗員は務まりません。

どこかで聞いた言葉に「添乗員に向いているのは、舞台裏でせっせと働き、そして舞台にも立てる人」というのがありますが、本当にその通りだと感じます。

縁の下の力持ちでなければならず、反面、人前できちんと話をすることができ、ある程度のリーダーシップも必須です。

そしてもうひとつ、とても大切な要素は「どこでも寝られること」。ベッドや枕が変わっても平気、おまけに飛行機の中も眠れちゃうくらいでちょうど良いです。

ヨーロッパのツアーともなれば10日以上も連続で休日なしに働くこともありますから、好き嫌いなくよく食べてよく眠ることはとても大切です。

ちなみに添乗員は、添乗先で朝目覚めた時、一瞬自分がどこの国のどの街にいるのか分からなくなるのはよくある話です。

あまりにも毎晩眠る場所が違い過ぎて、目覚めた時の部屋の様子だけでは、自分がどこに居るのかわからない瞬間があったりします。

拘束時間とお給料が見合わない

一番ツラいのはやはり、拘束時間とお給料が見合わないことです。添乗員の給料形態については、所属派遣会社や派遣先旅行会社によって異なりますが、海外添乗の場合は日給で1万円くらいからスタートするのが一般的です。

もちろん添乗日数を重ねていくうちに査定が上がり、日給も上がっていきますが、拘束時間の長さを考えると、これは決して高いとは言えません。

また、近年では時給制を取り入れている旅行会社も増え、日給制にせよ時給制にせよ共通して言えることは、「働いた分だけしかお給料がもらえない」ということです。

つまり、1本もツアーをアサインされない月があるとしたら、その月のお給料はゼロということになります。

旅行業界には繁忙期もあれば閑散期もありますから、お仕事の量は時期によって波がありますし、人によってもまた違いが出ます。閑散期には別のアルバイトをするというのもよく聞く話です。

また、テロや暴動、伝染病などの世界情勢によっても、旅行業界はすぐに影響を受けてしまいダメージを負いやすいことも現実です。

添乗員という仕事は、なり手は多いのに仕事への定着率はとても低いと言われており、それはやはりお給料が安いこと、仕事の量に波があること、安定した収入を見込めないことなどが大きな理由でしょう。

それでも添乗員を辞めない理由は?

何度も辞めようと思いつつも、それでも続けている理由は人それぞれだと思いますが、真面目に長くやっていればそれなりに仕事量は安定してきますし、少しずつでも日給・時給は上がっていきます。

お客様との距離感の取り方や、あしらい方も体が覚えてきます。トラブルに対する先手の打ち方なども要領よくなってきます。

そうなると仕事というものは自ずと楽しくなるものですし、何よりも魅力的なことはやはり、個人ではなかなか行かれないような場所を実際に訪れることができ、人生で一度は見るべきと言われるような美しい景色を目の当たりにし、知らなかった芸術などに触れ、どんどん人生が豊かになっていくことではないでしょうか。

加えて、お客様からかけて頂く温かい言葉は、何よりもありがたいです。お客様の楽しそうな笑顔に勇気づけられ、また頑張ろうと思えます。

また現場では、孤独な反面、裏を返せば自分のペースで仕事を進められるという気楽さもあり、自分で自分のツアーを誰にも気兼ねなく演出できるのも、魅力のひとつです。

まとめ

どんな仕事にも、メリットとデメリットはあるものです。要は、それを天秤にかけて考えた時に、どちらが自分自身の心に響くか、だと思います。添乗を通して広がる見たことのない世界は、自分自身を高め、心を満たしてくれます。

また、お客様の人生の中で、海外旅行という大切な思い出のワンシーンに携われることの喜びは、とても大きなやりがいになります。非正規雇用で、そして世界情勢に左右されやすく、仕事の量も不安定な海外旅行添乗員。

職業としては現実的な選択肢に入りづらいかも知れません。でも、何が起こるか分からないからこそ冒険心や好奇心をくすぐられるドラマチックな職業でもあります。

時間が来たら旅に出て、時間が来たら帰る、そんな商業的な旅人ではありますが、非日常がそのまま日常になる仕事です。

喜んでくれる人の顔を思い浮かべながら、テレビや映画や写真で見た海外のあの景色が、あなたの新しい仕事場になるかも知れません。

この記事の筆者

藤井りえ(仮名)
1971年生まれ。日本大学卒業。海外旅行添乗員歴18年。今までに派遣された旅行会社は10社以上に及び、現在は募集型パッケージツアーより企画型手配旅行や教育旅行などの添乗を主としている。何年経ってもパッキング(荷造り)が上手にできずとても時間がかかってしまうことと、歳と共に年々ひどくなる時差ボケが目下の悩み。

このページの先頭へ