お花屋さんに転職したい。でもちょっと待って、その裏側は…。

女性であれば、多くの人が、一度は憧れたことがあるのではないでしょうか?

「お花屋さんで、働いてみたい!」。

綺麗な花に囲まれて一日の大半を過ごせて、ブーケやアレンジメントなど、美しい作品を作って過ごして、それがお客様に喜んでもらえて、お金が手に入るなんて。

なんて優雅で、イイ職業なんだ!

「お花が好き」

「笑顔でニコニコ、ゆったり働きたい」

「女らしい仕事がしたいな」

そう思って、花屋で働きたいと思っているのなら。ちょっと待ってください。キレイでキラキラ見えるお花屋さんの裏事情……知っていますか?

執筆者の情報
名前: 井上海(仮名)
性別: 女性
年齢: 33歳
業界(歴): 生花(6年)
職種(歴):フローリスト(6年)

優雅にニコニコなんて程遠い……花屋は体育会系!

花屋はなんといっても、「重いものを動かす」仕事。女性にとっては肉体労働です。

花の苗を並べたトレーは、数キロの重さがあります。大きな鉢や観葉植物なら、10キロを平気で超えるものも。

水のたっぷり入ったバケツを、一日に何十個も運びます。バケツを洗い、雑巾を洗い、腰をかがめた姿勢での水仕事もたくさん。

市場にて花の仕入れがある日には、花を積んだトラックが店に到着したら、花屋の中は戦場です。

花を新鮮なうちに店に並べるためには、一刻もはやくトラックから降ろし、「水揚げ」という花に水を吸わせる作業を行い、バケツに漬けなければなりません。

花が100本入った箱を2つ3つ担いでせっせと作業場へ運び、水をナミナミ入れたバケツを両手に持ち、水場と作業場を走って往復です。

行動がトロければ、上司から怒号がとんでくることもあります。

「素早く、頭を使って行動しろ!」というのは、どこの花屋に行っても言われることです。

配達を任されるようになったら、大きなお祝いのスタンド花や、陶器鉢に何十輪と咲いたコチョウランなどを、お届け先へひとりで運ぶ機会も多くでてきます。

大きな声では言えませんが、花屋の配達業務は、駐車禁止の取り締まりとの勝負。花屋の責任者は、少しでも売り上げを確保するため、配達先でコインパーキングなどの使用を許可してくれるケースはとても少ないです。

「走れ!駐禁を切られたら、自腹で払えよ!」というのが花屋のセオリー。

数10キロの重い花を抱えて、全力でダッシュできますか?花屋で戦力になりたかったら、体力と筋力は必須条件なのです。

綺麗な手指は諦めて!手荒れでドクターストップの例も。

花屋の仕事と“水”は、切っても切れません。植物の生命線は、水。植木には毎日水をやり、花を漬けるバケツには水をたっぷり入れます。

花屋には、たくさんのバケツが並べられ、花が飾られていますよね?あれだけの数のバケツ、もちろん毎日、スポンジやタワシを使って洗います。

雑巾もたくさん使います。水を使うことが多いということは、それだけあちこち濡れたりこぼしたりする機会が増えるということですし、茎や葉が散らばったり、花粉が落ちたり、土がこぼれたり…。花屋はとても、「汚れる」仕事です。

雑巾を使って洗い、使っては洗い、が続きます。花屋での下働きは、一日の大半が洗い物や掃除で終わると言っても過言ではありません。

そんなふうに一日中、水と触れ合っている仕事。もちろん、優雅にその都度、ハンドクリームなんて塗っていられません。職場によっては、手を拭く時間すら惜しいこともめずらしくないのです。

手荒れをしないために、きちんと守らなければいけないことは、

「洗ったらよく水気を拭き」

「こまめにクリーム等を塗ること」

「極力、水に触れないこと、ゴム手袋を使うこと」

と言われていますよね。

花屋は、これがすべて、守れない仕事です。

とくに冬場は、濡れた手指が寒風にふきっさらされ、ヒビ・アカギレが絶えません。指を曲げるたびに血がにじむような手荒れが続き、ドクターストップが出て花屋を辞めざるをえなかった人もいます。

冬はひたすら極寒。体調不良に気を付けて。

花屋の冬は、どんなに寒くても、暖房を入れるわけにはいきません。植物は、室温が高いほど、傷んでしまいますからね。

暖房のない店内に、さらにストッカー(花用の冷蔵庫)からしんしんと冷気がただよい、体の芯から冷える日が続きます。

水を触る作業が一日中続きますが、もちろん、お湯を使うわけにはいきません。

氷水のように冷たい水を触り、感覚のなくなった手先で、休む間もなく商品を作ったり、掃除をしたり、仕事を続けなければいけません。

年頃の女性であれば気を抜きたくないオシャレも、冬場ばかりはお休みです。

花屋で働く女性の誰もが、冬場の服装には、

  • ヒートテックを重ね着して、セーター、その上にフリースを着て、さらにダウンジャケット
  • タイツを2枚か3枚重ねて、その上にジーンズ
  • 靴下も3枚か4枚を重ね履き
  • 靴の中・腰・背中・おなかにホッカイロ

と、尋常じゃない重ね着をしていました。その姿はまるでダルマです。

とくに女性にとって、冷えは大敵。色々な大病に繋がることも。私が知っている年配の花屋経営の女性に、こんなことを言われたことがあります。

「若いころ、とにかく厳しい花屋に勤めていて、体の冷えに対策をとるヒマもとれなかった。無理をしすぎた結果、こどもを産めない体になってしまった。アナタはこれから結婚・出産を控えている年齢なんだから、十分に気をつけなさい。」

私も、もう見た目など構わず、冬は着ぶくれダルマになることを諦めています。体を冷やして大きな病気になったり、妊娠できなくなったりするよりは、格好悪いくらい、いくらかマシだと思うしかないのです。

薄給争いでは上位にランクインできるかも。貧乏に耐える覚悟を。

花屋のアルバイトの時給は、ほとんどの店が最低賃金に設定されています。月給制で働く場合も、目を見張るほど低い金額が提示されていることが多いです。

私が月給で働いた生花店は2店舗ありますが、以下のような具合でした。

【1店舗目】
月給16万円。
1日8時間勤務、時間外・残業代は別途支払い。
休日は月6日。
社会保険なし・交通費別途支給。
有給なし、売り上げが良ければ年2回の寸志あり。

【2店舗目】
月給18万円。
勤務時間は1日8時間~仕事のある限り。時間外手当なし。
休日は月4日。
社会保険あり・交通費支給なし。
有給なし、ボーナスなし。

ちなみにこれは、大阪市内、しかも中心部の繁華街での実例です。大阪市で、この給料で一人暮らしをしながら働くのは、相当困難。

実家住まいで、金銭的に余裕がありつつ働くことができる環境か、子どもがおらず、パートナーとダブルインカムで暮らせる若い世代でなければ、花屋を本業として生活をするのはかなり苦しいでしょう。

短期のアルバイトやパートで働くならばいいのですが、「生涯、花屋で生計を立てていきたい」と思うのであれば、休みもない・カネも無い…な生活を覚悟の上、短期決戦のつもりで花屋に就職しましょう。

“花屋に1年以上務めるな”という名言があるほどの生花業界です。勤めるほどに出世して給料があがる、という事とは無縁の仕事。

最低限の経験だけして、あとは自力で独立してやる!というぐらいの気合がなければ、花屋へ勤務すること自体、無駄になってしまいかねません。

まとめ

  1. 花屋は体育会系!優雅にニコニコは、表向きだけ。
  2. アカギレ・ひび割れ…手荒れがヒドい。綺麗な手指は諦めて。
  3. 冬の花屋はひたすら極寒。体調不良に気を付けて。
  4. 薄給争いでは上位にランクインできるかも。貧乏に耐える覚悟を。

いかがでしたでしょうか。

女子なら一度は憧れる、「お花屋さん」。でもけして、「女性向き」の仕事ではないと、私は思います。

「お花が好きだから…」「キレイなものに囲まれてオシゴトなんて、すてき…」

もしそんな気持ちで、就職を考えているならば、けしてオススメできません。

重労働でもOK!であること。体力のある、強くて丈夫な体に恵まれていること。そして、貧乏にも耐えて、絶対独立してやるぜ!という気概が人一倍あること。これらの条件が揃っていないと、花屋に勤めるのは厳しいのです。

でも、それだけのマイナスをクリアできるなら…

「自分の仕事に、すぐに結果が出る」(商品に評価をもらえる、売れる)

「小さな職場だからこそ風通しがよく、やるべきことが見える」

「自分の腕一本で、独立に近づく」

など、やりがいも多くある仕事です。ぜひ、よく検討してみてくださいね。

この記事の筆者

井上海(仮名)
大阪の小さな花屋のスタッフ。
20代の若気の至り、付き合い始めたばかりの当時彼氏(花屋3代目)がなにか驚くようなことをできないかしら、
というドッキリをしかけたい一心で、会社に辞表を出し花屋の求人へ応募、採用される。そのままズブズブと生花業界で生息。
昭和のバブル期のまま時間が止まっている日本の花屋の在り方に疑問を持ち、
次世代の花屋とはどうあるべきかを実験するための花売り修行中。

特技は咲き終わった花ガラをひとつ残らず摘むこと。

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