ニッチでコアな会計士の転職事情をわかりやすくまとめてみた

公認会計士の転職先は大きく分けると、監査法人、コンサルティング系、金融機関、一般事業会社の4つがあります。どのキャリアを選ぶかによって、仕事内容や年収には大きな差があります。

最近の会計士の動向と、上記4つの転職先に関する情報についてわかりやすくまとめてみました。

会計士の最新動向

会計士の資格と言えば、かつては、弁護士の資格と並び「持っていれば一生安泰」と言われる資格でした。ところが時代は変わり、ここ10年を見るだけでも会計士を取り巻く環境は激変しています。

2006年の会計士試験の新制度導入、そして、2008年に起こったリーマンショックにより監査法人の業績は悪化しました。安泰と言われていた監査法人もリストラを行う時代に入ります。

会計士が扱う仕事内容も刻々と変化しました。2003~2007年頃はIPO(株式公開)支援やJ-SOX関連、M&A関連業務が主なサービスでしたが、その後2008年のリーマンショック以降は状況が一転し、再生支援が盛んになっていきました。

2012年は円高の影響により海外企業の買収が盛んに行われていたことは記憶に新しいと思います。そして最近では、2015年または2016年から強制適用されると言われているIFRS(国際財務報告基準)対応支援のコンサルティング業務が旬なサービスです。

このように、会計士といえども変化し続ける世の中に対応して行かなければ生き残れない時代になっています。最近はリーマンショックの影響も薄れ、アベノミクスの効果により景気は回復の兆しを見せはじめました。

大手の監査法人や会計事務所なども早期退職を敢行し採用を閉ざしていた時代もありましたが、今は採用枠を増やしています。会計士の就職先は監査法人や会計事務所だけでなく、コンサルタント業界や金融機関、一般事業会社など様々なフィールドに広がっているのです。

監査法人

監査法人は会計士の就職先として最も人気があります。大手の監査法人と中堅、中小監査法人では仕事内容や収入には大きな差があります。どのような違いがあるのかをご説明しましょう。

4大監査法人

日本の4大監査法人と言えば、以下の企業が有名です。

  • 有限責任あずさ監査法人(KPMG)
  • 有限責任監査法人トーマツ(Deloitte)
  • 新日本有限責任監査法人(Ernst & Young)
  • PwCあらた監査法人(PricewaterhouseCoopers)

監査法人のBIG4とも呼ばれ、それぞれの系列の監査法人が数多く存在します。年収が高いこと、クライアントにはグローバルに展開する大手企業が多いこと、担当する企業によっては世界で活躍できることから、多くの会計士がBIG4系列の監査法人で働きたいと思っています。

もちろん、これらの監査法人に転職するためには高い能力が求められます。特に、外資系企業やグローバル企業を相手に仕事をする場合は、高い英語力が求められるでしょう。

最近では、4大監査法人で定年まで勤務することを目標とするのではなく、会計士試験合格後に実務経験を積むための修行の場とする人や、独立のための箔付けに利用する人もいます。

会計士の就職氷河期を乗り越え、最近では採用枠を増やしつつあります。氷河期に大手監査法人に就職や転職できなかった人達が、この波に乗って転職を果たすケースが増えてきています。

中堅~中小監査法人

中堅~中小の監査法人は大手監査法人に比べて収入が低く、知名度やブランドと言う点では見劣りする部分が確かにあります。しかし、中堅~中小監査法人には大手監査法人にはない、以下のような魅力があります。

  • 若くても責任ある仕事を任される可能性がある
  • 監査業務以外にも、様々な業務を経験できる

大手監査法人では若い時に大きい仕事を任されることはなかなかありませんし、会社組織が大きいため必ずしも自分の希望の部署に配属されない場合があります。

しかし、中堅~中小監査法人なら若くてもスタッフをまとめるインチャージになるチャンスがあるかもしれません。

また、監査業務だけでなく企業の財務関連の仕事である財務デューデリジェンスや企業価値評価(これをバリュエーションと称する事もあります)などを経験できる場合もあります。そのため、大手監査法人で自分がやりたい仕事が出来なかった人達が、やりがいを求めて転職するケースなどもあります。

コンサルティングファーム

会計士がキャリアアップするための転職先として人気が高いのが、コンサルティングファームです。

コンサルティング系にもファイナンシャル・アドバイザリー・サービス(FAS)、財務・会計系コンサルティング、M&A/再生コンサルティングがあり、それぞれ扱う仕事や必要なスキルは異なります。会計士になることが最終目標というよりは、会計士の知識や経験を生かしてキャリアアップしていく選択と言えます。

ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス(FAS)

ファイナンシャル・アドバイザリー業務を提供するコンサルティングファームでの仕事内容は、主にM&Aアドバイザリー、デューデリジェンス、バリュエーション(企業価値評価)、事業再生、フォレンジック(不正調査)、官民パートナーシップ(PPP/PFI)などです。

監査のみの経験でも、デューデリジェンス部門なら監査と共通する部分が多いため、転職は比較的スムーズにできるでしょう。M&Aアドバイザリーや事業再生部門の場合、監査以外にも金融機関やファンド、戦略コンサルなど複合的なキャリアが求められます。

振興分野のサービスであるフォレンジックは、専門家がまだ少ない領域です。今後の可能性を切り開いていくという点で、面白いかもしれません。

財務・会計系コンサルティング

監査法人で監査経験を積んだ会計士が即戦力として活躍しやすいのが、大手上場企業や金融機関への業務支援を行う財務・会計系のコンサルティング企業への転職です。

上場企業の連結決算業務や開示資料作成などを行う連結財務諸表作成支援、日米財務諸表コンバージェンス支援、内部統制に関するコンサルティング業務、デューデリジェンスなどを行います。国際会計基準(IFRS)に関する知識があり語学力が高ければ、より優遇されるでしょう。

M&A/再生コンサルティング

M&Aや事情再生の分野に特化してコンサルティングを行うコンサルティングファームへの転職という選択です。ブティック系ファーム、特化系ファームとも呼ばれています。

M&Aや事業再生などの専門的な領域に特化しているため、顧客と深く結び付き、専門的なサービスを機動的に行う点が特徴です。

M&Aの分野ならば、M&Aのスキーム策定、合併後のファイナンスに関するシミュレーション、リスク分析、トランザクションサービスなどの業務を行います。

事業再生分野では、財務調査や再生計画の策定、金融機関との交渉、事業再生の実行支援、再生後の支援などの業務を行います。

このような業務を遂行するためには、監査経験や会計士の知識だけではなくM&Aや事業再生に関する様々な知識や経験が求められます。財務や企業戦略などの要素も必要な、レベルの高い業務です。

その分ハードワークになりますが、成果によってはかなり高い水準の年収になるでしょう。会計士としてのバックグラウンドを生かせる場面が多いのも魅力です。

経営戦略コンサルティング

企業の経営課題のコンサルティングを行う、経営戦略コンサルティングへの道もあります。クライアントは大企業の経営層で、経営に関する問題解決をするのが仕事です。

そのため、問題の本質を見抜くための論理的思考力や分析力、洞察力、既成概念にとらわれない柔軟な思考、そして、クライアントの信頼を獲得し、プロジェクトを束ねる高いコミュニケーション能力と人間力などが求められます。

もちろん、財務・会計のスキルが高く、クライアントの財務諸表から経営状態を把握し、予測・分析ができる会計士は即戦力になります。経営のプロになるためには会計士のスキルは非常に重要なのです。

そして、会計士が経営戦略ファームを経験すると、その後のキャリアの選択肢は大きく広がります。

金融機関

金融監査の経験がある会計士が特に優遇されるのが、投資ファンドや投資銀行などの金融機関への転職です。特に、監査法人で銀行や証券会社をはじめとした金融機関担当をしていた人は、その経験を生かすことが出来ます。

もちろん、会計の知識だけではなく、新たに投資に関する知識や経験を身につける必要があります。投資ファンドや投資銀行への転職は、会計士の知識を生かして投資のプロフェッショナルになりたい人のキャリアパスと言えるでしょう。

投資ファンド

投資ファンドは投資家から資金を募って企業に投資し、投資した企業の企業価値を向上させた上で投資資金を回収しリターンを得ています。

上場を目指すベンチャー企業に投資を行うのがベンチャーキャピタル、企業価値を高めた後に企業の株式を売却するバイアウトファンドがあります。求められるのは投資のプロフェッショナルですから、会計監査の経験のみでの転職は難しいものがあります。

投資の際には会計の知識に加えて税務、法務などの知識が必要です。さらに、コンサルティングや財務の経験があれば優遇されるでしょう。また、ベンチャーキャピタルならば事業分析スキルが、バイアウトファンドであれば財務分析スキルが重要視されます。

投資銀行

投資銀行は証券会社から個人投資部門(リテール部門)を除いた業務を行います。主に有価証券の売買やM&Aの仲介によって利益を得ます。外資系ならばモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスなどがあります。

日本の場合は銀行の中に投資銀行部門がある場合がほとんどです。主な業務は顧客企業の資金調達支援や財務戦略のアドバイスなどですから、企業のB/S(バランスシート)の知識が必須です。

さらに、金融商品の知識や財務モデリングのスキルがあれば、転職に有利になります。

一般事業会社

企業内に会計制度を確立し、財務情報の信頼性を高めるために会計士を採用する一般事業会社が増えています。コンサルティングや金融機関に比べると採用のハードルが低いため、採用されやすいでしょう。

企業の経理・財務スタッフとしての採用がおもな採用後のポストになりますが、会社の金庫番である経理のマネージャークラスの採用、財務系部署の責任者としてのポジションで採用されるケースも儘あります。

こういった重要なポストに採用されるには事業会社での経理・財務経験はもちろん、M&Aの知識と経験や経営企画に関する業務経験なども求められる場合があります。事業会社の規模や状況によって必要なスキルは異なります。

大手上場企業

上場企業では、経理、財務、内部監査、経営企画、M&Aなど会計士が活躍するポジションが増えています。具体的には、経理部での月次・年次決算書類の作成、有価証券報告書の作成、IFRS導入対応などです。

ベンチャー企業

近年では、IPO(株式公開)を視野に入れたベンチャー企業が増えているため、IPO支援ができる会計士の採用枠が増加しています。株式公開後はCFO(最高財務責任者)へのキャリアが開ける場合もあります。

総合商社

会計士として事業会社への転職を考えている人に近年人気が高いのが、総合商社への転職です。7大商社の会計士の採用も増えています。そこには、商社のビジネスモデルが投資や事業開発へ軸足を移しており、会計や財務のプロが不足しているという背景があります。

各商社には関連子会社が何百社も存在しており、それぞれの会社にCFOの人材が必要とされています。経理や財務、経営企画、投資関連業務などができる会計士の需要が高まっています。海外の支社に採用希望の場合は、高い語学力も求められるでしょう。

キャリア別会計士の年収

会計士のキャリアは様々でしたが、では、それぞれ年収はどうなっているのでしょうか?ここでは、転職が最も多い20代~30代半ばの会計士のキャリア別の年収帯をご紹介しましょう。

1位 投資ファンド・投資銀行 800~1000万円
2位 コンサルティングファーム 650~850万円
3位 BIG4監査法人  600~800万円
4位 一般事業会社(経営企画) 550~750万円
5位 中堅・中小監査法人 500~700万円
6位 一般事業会社(経理) 500~650万円

最も年収水準が高いのは投資ファンド・投資銀行で、次いでコンサルティングファームとBIG4監査法人という結果でした。

会計士と言えば「大手監査法人で経験を積んだ後、独立して会計事務所を開業するのが最終形態だ」という時代ではなくなりました。

会計士の転職先は多様化しており、投資業務やコンサルティング業務などプラスアルファのスキルを得ることによって、様々なキャリアパスを選択することができるのです。

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