社会保険労務士としての転職ニーズは?
転職活動では、資格がないと応募できない場合、資格があることで優遇される場合というのはよくあると思います。
私は、現在転職エージェントとして求職者の転職支援を行っているのですが、多くの求人を受ける際に、資格は転職活動で有利に働くという印象を持っています。
私がかつて転職活動を行った時も、やはり資格は重要なものでした。
今回は、その資格のなかでも『社会保険労務士』を中心に、社会保険労務士の資格が転職活動にどのような影響をもたらすのかをご紹介できればと思います。
私自身が社会保険労務士の資格を持っていて、それを武器に転職活動をした経験があるため、今回のテーマはかなり自信があります!
では、まず社会保険労務士とはどのような資格なのか、このあたりから今回の話を起こしていこうと思います。
今回の記事の目次
社会保険労務士とは?
社会保険労務士という資格は、一定以上の労働関係の法令の知識を有している認定となる国家資格になります。
労働関係の法令といっても内容は多岐にわたります。労働者に身近なものは以下のようなものでしょうか。
労働者に身近なもの
- 雇用保険
- 健康保険
- 国民年金を含む厚生年金保険
- 労災保険
そして、何より外せないものが労働基準法です。
この労働基準法は、労働者の保護を目的として、また、企業の横暴な労働環境を未然に防止するための法令です。
この労働基準法があることにより、今の日本の労働環境はある程度、クリーンな状態をキープできているように思います。
社会保険労務士は、これらの法令のプロのことを言います。
社会保険労務士の試験
社会保険労務士の試験は毎年1回、8月の最終週の日曜日に行われます。
合格するには全ての科目で一定以上の得点を獲得して、総合点も一定以上の得点を獲得することが必要です。
今回のテーマとは違いますので割愛しますが、かなり範囲が広いということはお伝えしたいと思います。
午前中の試験で一定基準の得点を取れていないと判断して、そのまま会場をあとにする受験者がそれなりにいます。
難易度としてはAランク程度と、それなりに難易度が高いものですが、最高ランクのSほどではないため非常に難しいというほどのものではありません。
社会保険労務士の範囲は広い
社会保険労務士は幅広い仕事に対応する必要があり、必要な法令の範囲は異常に広いです。
試験としての難易度はAというレベルですが、試験範囲が広いなかで科目合格と合計点での合格をパスしなければならないため、その意味では理不尽とも言えるぐらいの難しさです。
厳密に言えば、難易度よりも試験範囲はSだと思います。
社会保険労務士が必要とする範囲の法令の数は、50~60個程度です。
試験では中心としていない法令が「労働一般常識」と「社会一般常識」というくくりにされていて、この二つの科目の範囲が異常に広いです。
社会保険労務士は人気の資格
現職を持ちながらでも1年程度の勉強をすれば合格圏内に入ることはできると言われていますが、1回で合格するには独学はまず不可能に近いと思った方が良いです。
資格の学校に通っても1回で合格する人はあまりいません。
合格率は毎年7~8%と言われています。
平均受験回数は3回~4回と言われていますので、高校や大学と同じ期間の勉強をすることになります。
大体の方は現職を持ちながらの勉強だと思いますので、メンタル面が強くなければ途中で投げ出してしまう人も多いです。
社会保険労務士試験の最も理不尽なところは、合格点が相対比較になるため受験者の平均点を基礎に合格点が決まるという点です。
そのため『この点数なら絶対に大丈夫』と言える基準がありません。
ただ、これだけでの理不尽さがあっても、社会保険労務士としての活躍の場が多ければ意味があります。
社会保険労務士と人事
私は転職エージェントとして活動する以前は、民間企業の人事として数年働いていました。
社会保険労務士はこの人事という職種とめちゃくちゃ相性が良いです。
労務や給与計算に関しては、社会保険労務士の試験範囲と完全合致と言えるぐらい仕事内容が似ています。
労務の仕事内容
労務とは、その企業の労働保険や社会保険を管理するとともに、従業員の毎月の給料から保険料を天引きする計算を行います。
従業員がケガや病気をした際は行政に手当の支給申請を行うことも仕事ですし、従業員が退職して失業手当などの受給を希望する場合は離職票の作成なども範囲に含まれます。
主な仕事は企業や従業員のサポートということになります。ぶっちゃけて話をするとかなり面倒です。
事務処理が非常に細かく、同じ業務の繰り返しですが、従業員の給与に直結する仕事なので慎重に行わなければいけません。
性格的なものがあり、社会保険労務士や労務と給与計算には女性の方が多いと言われています。
給与計算の仕事内容
給与計算の仕事内容は、その名の通り『給料を計算する仕事』です。
給与は毎月固定の場合もあれば、営業職などは毎月変動する場合があります。
法令で定められた規定で、高い給料であれば高い保険料、低い給料であれば低い保険料がかかってくるのですが、こういった計算も人事の仕事の一つになっています。
また、非常に労力を要する仕事が年末調整です。
私もこの年末調整を担当したことがありますが、気が狂いそうになるぐらい仕事内容が細かく、量も膨大でした。
私は自分の人生でこれまで経験したことのなかで、年末調整という仕事は二度とやりたくないです(笑)
ほかの時期は同じ仕事を繰り返すことが主な仕事になり、ある程度定時で仕事を終えることも可能ですが、この年末調整の時期だけは毎日終電という人事もいます。
転職市場における社会保険労務士の価値
どの企業にも働く人がいる限り、必ず労務と給与計算という仕事はあります。
そのため、社会保険労務士の仕事はどの企業にもあるということになります。
どの企業でも仕事内容は同じですので、一般に社会保険労務士の仕事範囲はつぶしがきく仕事と言われていて、汎用(はんよう)性があります。
特に人事との相性は抜群ですので、社会保険労務士の資格を持っていれば優遇する場合は非常に多いです。
社会保険労務士の本当のニーズは?
労務や給与計算は、社会保険労務士の資格を持っていなくても実務経験があれば十分対応することができます。
ズバリ言いますと、求人を見る限り社会保険労務士の資格が応募資格の必須条件にされている求人はないと思った方が良いです。
私も数ある求人を見てきましたが、社会保険労務士の資格を必須としている求人を見たことはありません。
私が見た求人は、すべてが社会保険労務士の資格は尚可条件や優遇条件となっています。
社会保険労務士の仕事は確かに専門性が高く範囲も広いのですが、企業で転職する場合に社会保険労務士の資格がなければ仕事ができないということは一切ないと思った方が良いです。
社会保険労務士の資格を持つことで特別な待遇はあるのか?
結論から言いますと、残念なことに社会保険労務士の資格を持っていると内定時に役職や年収などすべての内定時の条件で待遇が良くなるということはないです。
なかには手当がつく企業もありますが、それは資格全般に言えることで社会保険労務士だけに該当する意味ではありません。
自分も持っている資格ですので残念な気持ちもありますが、企業にとって本当の意味でニーズが高いとは言い切れないと私は思っています。
もし本当にニーズが高いのであれば、資格を必須とした求人が多くあるでしょうし、内定時の条件面でもそれなりの待遇があると思います。
転職市場には人事の経験を持つ求職者は多い
労務や給与計算の仕事をする人事のポジションは、一定規模以上の企業では必ずありますので、その分転職市場に経験を持つ求職者は多いです。
すると、企業としては求人を公開すると簡単に母集団を作ることが可能で、企業内の立ち位置もそこまでバリューが高いとは言えないため、それなりの条件で採用することができます。
そのため、相対的に社会保険労務士の資格を持つ求職者の価値もそれほど高いものではなくなっているのです。
社会保険労務士の独立性
社会保険労務士は、転職活動をせずに独立開業することが可能な資格です。
ただ、社会保険労務士として独立して高い報酬を得ている人は日本全国にほとんどいないと言われています。
転職市場同様に社会保険労務士の仕事がそれほど難しくなく、実務経験がある人であれば事足りるためだと思います。
ただ、労使間の紛争解決など、社会保険労務士の資格を持っている人だけしかできない一部の仕事範囲もあります。
ただ、一体どれだけの労働者が紛争解決で社会保険労務士に相談するのかなと感じます。
大体の求職者の方は労働基準監督署などの行政に相談するのではないかと思うのです。
そうなると、社会保険労務士の資格を持っているからこそできる唯一の仕事内容もそこまで世間的なニーズはないと思います。
社会保険労務士の資格を持って転職活動をした体験談
私が資格取得したあとの転職活動で感じたことを交えてご紹介したいと思います。
結論的には、思っていたよりも大して影響なかったかな部分と大きく影響があった部分の両方がありました。
当時の私は、社会保険労務士という試験に合格して市場価値が上がったと勝手に思い込んでいました。
周りからも『すごいね』などと称賛の声をもらい、転職エージェントのキャリアアドバイザーにも
『社会保険労務士を持っているのですね。これはかなり有利ですよ』
などと前向きなアドバイスをもらい、さらに転職活動の早期決定に自信を持ちました。
鬼門の書類選考の通過率
社会保険労務士の資格を取得して転職活動で良かった点は、この書類選考の通過率だけと言っても良いです。
転職活動で最も通過率の低いフェーズで有利になったのは確かに良かったですが、その後の適性検査や面接にはほとんど効果がなかったと言い切れます。
どの企業も、求人の内容が異なっても社会保険労務士の資格を持っていれば選考途中でその求職者を労務や給与計算に配置したいと考えるものです。
私も実際にポジションに変更になったので内定を辞退しましたが、社会保険労務士の資格を持っている場合はこのようなこともあり得ます。
社会保険労務士の資格と転職活動の求職者
社会保険労務士は見た目の印象は良いのですが、実際はそこまで高い価値を得るということは難しいように思います。
税理士や公認会計士は企業の顧問や取締役になれる可能性が高いのですが、社会保険労務士が企業の顧問になることはほとんどないです。
計画的に社会保険労務士の資格を取得してから転職活動を始めようとしている人がいればアドバイスしたいのですが、資格取得に励むよりも労務や給与計算の実務を経験した方が効果的です。
社会保険労務士や労務や給与計算の市場価値は想像するよりも高いとは言えません。
世の中には多くの資格があり、その資格を取得するに要する時間や努力、それに対するリターンを考慮して取得を目指すかどうか決めるのが得策だと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。