第五回 35歳男性の転職歴 ~多くの企業と比較することで、自分なりに出た結論~
- 体験者の情報
- 名前:松澤 悠希(仮名)
性別:男性
転職経験:8回
現在の年齢:35歳
転職時の年齢と前職:20代~30代
ここにきて痛恨の選択
フリーランスに転身した、と書いていたが、実はひとつ会社に入って辞めていた。
正直忘れていた、というか忘れたかった思い出である。
会社のトップが変わって、担ぎたくない神輿は担げない!なんて思っており、その反面でそんな子ども染みた理由で辞めるようなやつは、もはや会社という組織には馴染めないのだろうと思っていた。
だが、 やはり家庭を持つものとして、フリーランスという選択はかなり勇気の要るものである。
そこで、フリーランスの準備を進めていると同時に、実は転職活動もしていたのだ。
そしてまたまた運良く、いやいや、運悪く、とある企業から内定をもらってしまった。
そこは、今までと同様に広告の制作会社だった。ただ、お給料という面では、今までの1.2倍程度。基本的には満足できる額だった。
面接時も、僕のスキルや経験を正確に把握し、評価してくれていると感じた。そして、結局、僕はこの会社へ入社してしまうのだった。
精神衛生上、最悪のブラックに入社
もはや、この部分を多く語っても仕方ないので結論から書くと、ものの3カ月で退職することとなった。
見事、最短記録の樹立である。理由としては、今までの経験の中で、最強最悪のブラックだったこと。これに尽きるだろう。
僕もこの職種に就いてそこそこ長いので、どの会社も残業(もちろんサービス)が当たり前なのはわかっている。
お客さんの都合もあったりするので、不可抗力でというのはどうしてもあるのだ。
しかし、僕としては許せないのが、ダラダラと残業をすることだ。だって、早く帰りたいじゃん!
その点、この会社は、22時になっても当たり前のように残業している。
そこに、早く仕事を終わらせるという工夫はなく、逆にそういった提案をしても「これがうちのやり方だから」なのである。
結局、勤務時間だとか、業務内容だとかは、制作会社としての常識の範囲内なのだけれど、僕の精神衛生上ではブラックだったということだ。
この会社にいたら、僕もダメになってしまう。そう思ったら、日々のストレスが増加していき、耐えられなくなってしまった。
家庭もあるんだし、我慢していればいいのに。相変わらずのこらえ性のなさである。
回り道をして得た結論
結果、僕はまたフリーランスとなった。一応、以前から根回しをしていたことが功を奏したという形だ。
まぁ、ただいくら根回しをしたところで、急に順風満帆になるわけではない。
生きていく最低限の収入くらいは確保できているものの、それもいつなくなるかわからない。
しかし、前回にもフリーランスを経験していたことで、「そういうものだ」という覚悟のようなものが今ではある。完全に軌道に乗るまでは、3年ほどはかかるだろう。
もし、そのときにものになっていなかったら…それは自分に才能がなかったということで、潔く就職するか、完全に職種自体を変えようと思う。
そう覚悟を決めると、割と気持ちが楽になるものだ。やはり、 自分のことを自分ですべて決められるということは、気持ち的には楽だし、責任もすべて自分だということもいい。
また、妻も僕と同様に考えてくれていることも心強い。
やはり収入面でプレッシャーをかけられると、どうしても空回りしてしまう。フリーでやっていくにあたり、これは結構大事なことだ。
周りの理解を得られなければ、ストレスがたまって、フリーランス自体が嫌いになってしまう。そうすると、やはり続けられないのだ。
結局、 続けていくには今の自分が良いと思えなければならない。その点では、現在はまだ続けたいと思っている。
もちろん先行きに関する不安はついてまわるけれども、達成したいビジョンというものもできてきた。
きっとこの仕事はいつまでも同じように続けることは不可能だ。
それは体力的なものであったり、センスの劣化であったり。
だから、今はがむしゃらに仕事をこなしていって、お客さんの信頼を獲得していく。
そうして仕事を増やしていくことで、いずれは自分の下に誰かをつけられるようになれば良いと思う。
それが会社という形態であるかはわからないが、現在の漠然としたビジョンである。
この目標を達成するために、何が必要であるかを模索しつつ仕事をしているというのが今の僕だ。
選択するということ
結局、ここまでに書いたことが、皆さんの参考になるかどうかは微妙なところだ。
人によっては、ただただ組織に馴染めなくて、ドロップアウトした体験談のようにも見えるだろう。いや、それも間違ってはいないと思うし。
しかし、社会に出てから10年余り、 自分に適している仕事というか立場というものは経験を積み重ねなければわからないのだと思う。
もちろん大多数の人たちは、少しくらい「おかしいな」と感じても、環境に自分を合わせる、または我慢することによって適応していくのだろう。
でもみんながみんな、そういう風に生きていけるものでもない。そして僕の場合は、フリーランスのメリットもデメリットも飲み込んだ上で、その道を選んだということだ。
そして、いまお仕事をもらえているということは、これまでの会社で積み重ねてきた経験が生きているということなのだと思う。
そう考えると、これまでの10年も無駄ではないのだろう(というか、そう考えなければやってられない)。
ただ、やはり今までの経歴の中で、後悔が全くなかったかといえば嘘になる。
もっと我慢をしておけば、逆に近道ができなかっただろうか、とか。
たぶん、就職、または転職には正解なんてないのではないだろうか。
もちろん、超優良企業をいきなり引き当てる人だっているだろうし、満足度も人によって違うので一概にはいえないが。
大事なのは、我慢するときはもちろん、決断する(もしくは切り捨てる)ときを見誤らないことだ。
これは僕ができなかったことなので、説得力には欠けているが、身を以て感じたことである。
きっと、皆さんも自分に合った場所を見つけられる。そのために、少しでも僕の経験が役に立てばと切に願うばかりである。
この記事の筆者
松澤 悠希(仮名)
1981年生まれの35歳。
大学卒業後、中小の編集プロダクションに就職する。
雑誌の編集長を務めるが、3年間の勤務ののち退職。
その後、広告業界へとシフトしていくものの、生来の自由気ままな性格が災いしてか、転職を重ねることとなる。
8度の転職を経て、自分に合っているのはフリーランスだと考え、2015年に独立。現在は、広告ディレクター・ライターとして、主に印刷物を手がける。
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