上場企業への転職は、難しいのか?上場企業を目指す求職者の転職活動について
求職者のみなさんは、あらかじめ決めている「転職希望条件」と「求人」の付け合わせを行い、自分に合った求人に応募するかどうかを決めます。
この転職希望条件は、求職者のみなさんそれぞれに個性や違いがあります。
求職者のみなさんは、上場企業、非上場企業と区分を転職希望条件に含めていますか?
『昔ながら』の話になりますが、上場企業は倒産リスクが少ない安心安定で働くことができるという意見が多くあります。実際のところ、今はどうでしょうか。
今回の記事の目次
今回のテーマは?
今回のは上場企業に関して、いくつかの視点からご紹介できればと思います。
現在の上場企業は、昔のように企業規模が大きい企業やナショナルクライアントと呼ばれる企業だけではありません。
新興産業とも言えるIT業界の、決して企業規模が大きいとは言えない企業も上場しています。
もちろん一定以上の業績がなければ上場することはできません。
上場と言えば、東証をイメージすると思います。この東証による上場基準ですが、以前はハードルが高くそう簡単ではありませんでした。
最近は上場基準が一気に下がり、『ある程度』の業績などがあれば比較的、簡単に上場することができるようになっています。
求職者のみなさんは、上場企業に対して昔と同じようなイメージを持ってはいけません。
転職後、自分が思うほど安定感のある職場環境でなかったことに気づくかもしれません。
実際、そのような声を聞くこともありますので、事前に上場企業について知るということも転職活動においては必要なことだと言えます。
私は現在、転職エージェントとして転職活動を行う求職者の転職支援をさせていただいています。
求職者の方のなかには、転職希望条件の中心に上場企業であること。という点を中心に考えている方もいます。
上場企業を中心に考えることは決して間違っている訳ではないのですが、本質的な問題は、なぜそこまで上場企業に転職することにこだわるのかです。
一般的に求職者が転職先に求めること:倒産せず、労働環境が良い職場に転職したい・・・
まず一般的に、求職者のみなさんの多くが、転職先に求めることとして『安定』があります。
転職後に自分がやりがいを持てる仕事内容や、自分が企業の中心的な存在として裁量の多い仕事に就きたいと考える求職者の方も、ベースにあることはやはり『安定』です。
求職者のみなさんにとって、転職で最も避けたいことは倒産リスクだと思います。
この考え方は正論的なもので、私も求職者であれば同様に考えると思います。
転職先が明日にも倒産しそうな経営状態がガタガタな企業に好き好んで転職しようとは誰しも思わないと思います。
倒産の次に転職で避けたいことは、『劣悪な労働環境』だと思います。
- 労働時間が異常に長い
- 残業をしても残業代の支払いがない
- 有休がない
などの労働環境では、体力的にも精神的にもきつくなり、早期退職につながる恐れが大きいと思います。
この考え方も倒産回避と同じで私も賛同できます。
現在は転職エージェントとして活動する私も、以前は、求職者のみなさんと同じように求職者として転職活動を行い何度か転職した経験があります。
当時の私は劣悪な労働環境の企業、つまり、ストレートに言うとブラック企業ということになりますが、ブラック企業への転職は絶対避けたいと考えていました。
一般的に求職者のみなさんは、この二つのことをまず何より転職先に求めると思います。
上場企業を転職希望の中心に置く求職者の方は、上場企業にどのようなイメージを持ち、どのようなことを求めているのでしょうか。
上場企業に求職者が求めること:メリットたくさん、公務員並みの待遇・・・という時代ではない!?
転職希望条件の中心に上場企業であることを求める求職者の方は、倒産回避、ブラック企業回避、この二つに対して通常よりも強く意識があるのです。
また、恐らくご両親などから上場企業の話をされているのかもしれません。
昔は、上場企業は公務員と同じような働き方ができるということがありましたので、ご両親は自分の子供に不測の事態が起こり得る人生を送ってほしくないと考えることは普通にあります。
そのため上場企業を転職条件の中心にする求職者の方は、上場企業へ転職することで公務員ではないものの、公務員と同等の安定を手に入れることができると考えています。
しかし先述の通り、企業が上場するにあたり審査を行う東証の上場基準は以前よりもかなり低くなっています。
上場企業=倒産はない
上場企業=公務員
こんな等式は大きな誤りです。
その企業が上場していても、企業規模が大きくても、民間企業である限り倒産リスクはあります。
そして近年、東証がなぜ上場基準を一気に引き下げたのか。このあたりの背景もぜひ把握していただき、『昔の上場企業』と、『今の上場企業』の比較をしてください。
そして、今の上場基準で上場した企業が、昔の上場基準で上場した企業とは違うことを理解していただきたいと思います。
上場企業への転職難易度:新規上場したベンチャー企業を狙う方法なら、転職自体は容易?
読者の皆さまは、現代日本には大きく分けて二種類の上場企業が存在することをご存知でしょうか。詳細については後に解説いたしますが、上場企業は「古くから上場している伝統的な日本企業タイプ」と「新しい上場基準のもとで最近上場したベンチャー企業」の二種類に分けることができます。しかも、両者の間で転職の難易度は全く異なるのです。
転職市場には上場基準が下がったなかで上場した企業もあるため、表向きの上場企業の求人は多くなっています。
特にIT業界のベンチャー企業は、勢いもあり短期的な好業績でも上場することができる状態にあります。
IT業界のベンチャー企業における上場企業の割合は多いです。
先述、ベンチャー企業の経営者は意思決定において、第三者の意向が強く働く状況を嫌がるとご紹介したかと思います。
ベンチャー企業の場合は、若い年齢の創業者が多く、自分の思い通りに会社を動かしたいと考えることが多いのです。
転職市場にある求人にもその意向が強く反映されています。
求人を見ていただければ分かりますが、労働条件に結構、エッジが効いたアグレッシブな好条件を付加していることがあります。
同じ求人の職種でも通常では考えにくい良い労働条件を付加している場合がベンチャー企業の特徴です。
株式を均等分配できている状態ですので、採用においても自分の意向を強く反映させているということになっています。
総合的にみて転職市場には上場企業の求人は多くなっています。上場企業という点だけで見れば、転職難易度はそこまで高いとは言えません。
ただ、60万社のうち3500社ほどしか上場企業はありませんので、求人を拾う割合という意味では非上場企業の方が多いと思います。
転職難易度とは、選考難易度となります。
上場企業という一点だけを見れば、選考基準に特別な高い内容を付加していることはほとんどありませんので、高いとは言えません。
昔の上場基準で上場した企業は例外:伝統的な日本企業への転職は、やっぱり競争が激しい
昔の上場基準で上場した企業は、昔からある企業で世間間一般の知名度もあります。
採用活動において、母集団形成を簡単に行うことができますし、求職者の方からも認知度が高いことで応募したいと考える場合が多いです。
求職者のみなさんは企業を名前だけで決めてはいけないのですが、そうは言っても自分がプライベートなどで知っている、知名度が高い企業は気になると思います。
応募することは良いと思いますし、私も求職者であれば、自分が知っている企業であれば応募してしまうと思います。
このように昔の上場基準で上場した企業の場合は、日本の労働市場では既に確固たる地位を築いています。
一般社会、転職市場ともに認知度も高く人気があります。そのため選考の絶対基準がそもそもとして高く、その上、人気が高く多くの求職者の方が一斉に応募することが予想されます。
相対的な基準も引き上がり、求職者のみなさんからすると、転職難易度は高いと思います。
転職難易度と転職後の良好な労働環境は比例するとよく言われます。転職難易度が高い分、転職後は公務員に近い安定的な働き方は可能だと言えます。
問題は最近、上場した企業:新規上場のベンチャー企業では、それほど好待遇でない場合も
求職者のみなさんは、求人を拾った際に求人のキャッチコピーに『上場企業』という文言を見たことはありませんか?
私は転職エージェントとして多くの企業の求人を抱えていますが、この文言を見かける機会がよくあります。
知名度が低く、求人に上場企業という文言を記載する企業は、最近の上場基準で上場した企業が多い傾向があります。
求職者のみなさんは自分が全く知らない企業で、上場している企業の求人を見たことはないでしょうか?
今まで見たことも聞いたこともないような社名の企業が上場していることがよくあります。
まさにこの上場企業こそ、最近の上場基準で上場したベンチャー企業です。
求人に上場企業と記載しなければ、上場企業であることに気付いてもらえません。
昔からある昔の上場基準で上場している企業は、先述の通り、大きな知名度を持っています。
わざわざ求人に上場していることを記載せずとも良いのですが、最近の上場基準で上場した企業は、企業規模、業績ともに少ない状態でも上場することができてしまっているため知名度が低いのです。
上場企業のメリットの一つに採用活動を有利に進めることがあります。
上場すると多くの求職者の方からの応募数も増えるという考え方を持っているため、求人に上場企業という文言を使ってアピールするのです。
確かに傾向としては、上場する前よりも上場後の方が求職者の方からの応募数が増えたという上場企業の方が多いのです。
求職者のみなさんは、この点にご注意いただきたいのです。
上場企業の採用戦略:上場しているか否かだけの判断で動くのは危険
最近の審査基準が低いなかで上場した企業も上場企業であることは変わりません。
そのため求職者のみなさんは、上場企業という文言を見ると自分が知らないだけで「この企業も上場している」と認識してその一点だけで応募することも多いです。
また求職者のみなさんは転職活動をするにあたり、選考が進むと面接などで感化されて、志望意欲が上がることが多いのです。
上場企業であれば、そもそもとして志望度が一気に上がる求職者の方もいますので、内定をもらうと迷わずそのまま転職することもあります。
最近の上場基準で上場した企業は、転職後に理想とするような働き方はまずできないと思った方が良いです。
と言うのは、最近の基準で上場しているため、企業規模や業績が少なくても良い訳ですから、実質的にはベンチャー企業と同じです。
最近の上場基準で上場する企業を見ると、創業の歴史が浅く、経営者の年齢も若いベンチャー企業であることが多いです。
ベンチャー企業の働き方は、ここで詳しく説明することは割愛しますがハードワークが基本です。
上場したとはいえ、昔の上場基準で上場した企業のように盤石に近い安定的な経営をしている訳ではありません。
最近上場した企業は採用戦略の一つとして、求人に自ら上場企業であることをアピールして、求職者のみなさんの志望度を上げることを狙っています。
求職者のみなさんは、上場企業でも二つのパターンがあることを理解してください。
上場企業というだけで、一気に志望度を上げるのではなく転職は転職後の内容が重要です。ぜひ、中身を見て判断してください。
上場という要素は、外見とも言えます。場合によっては良い外見(上場しているという事実)と、転職後の労働環境に、大きなズレがあることも往々にしてあります。
外見だけで判断することは控えた方が良いと思います。
上場企業の求人の探し方:エージェントを活用せよ
上場企業の求人は転職市場全体で考えると、割合としては少ないと思います。
何せ日本に3500社ほどしかありませんので、絶対数が少ないです。
そのため転職市場でも上場企業を中心に考えている求職者の方は、転職活動がある程度の期間、長くなることは想定した方が良いと思います。
このように求人を拾う機会が少ない上場企業は、採用活動において、転職エージェントを利用することがほとんどです。
求職者のみなさんも転職エージェントを利用した方が良いです。
上場企業が転職サイトではなく転職エージェントを利用する理由は、競合他社に求人を見させてないようにするためです。
企業にとって採用活動は、その企業の経営や新規事業に関わることです。
転職サイトに求人を公開してしまうのは、競合他社に情報を公開してしまっているようなものです。
転職エージェントの場合は、非公開求人にして求人を限定的にしか公開しません。
その意味で、多くの上場企業は転職エージェントを利用して採用活動を行うことが多いです。
上場企業とは? 名ばかりの「上場」を見抜く方法、教えます
上場企業を転職条件の中心にしている求職者の方は、上場企業について誤解をしている方が多くいます。記事の最後に、上場企業の見分け方について簡単に解説させていただきます。
そもそも上場企業とは?ということをお話したいと思います。また、昔の上場基準と今の上場基準の対比もしてみようと思います。
まず、企業は株式会社である場合がほとんどで、株を保有しています。
企業のなかには、投資家などから出資を受けて資本金を持ち、出資に見合うその企業の株式を配布するということが多くあります。
経営者のなかには自分以外に自社の株式を譲渡したくないと考え、100%の株式をその企業の創業者である経営者が持っている場合もあります。
どちらにしても、企業の経営において株式がつきまとうものです。
企業は経営する上で、自己資本が必要ですし、また事業拡大などをする際に多額の資金を必要とします。
そこで企業は、自社の株式を世間一般にも広く公募して株を購入してもらいたいと考えることがよくあります。
例外もありますが、大体の企業は、経営の一つのマイルストーンとして自社が上場企業になることがあります。
企業において、上場とは世間一般に認められた証しにもなり、認知されたシンボリックなものになっています。
自社の株式を世間一般に譲渡して譲渡費用を得るためには、上場することが必要です。
東証を通して株式を売買する機会が圧倒的に多くなりますので、東証の審査を受けて上場しようとします。
上場せずとも投資家から出資を受けて新規事業に投資することもできますが、一般に株式公開して、株式売買により資金を集めた方がその額は明らかに大きいです。
上場することで株式保有の偏りを防ぐ
企業の創業者である経営者は、自社の経営の意思決定に、第三者の意向が強くなることを非常に嫌うことが多いです。
この後ご紹介するベンチャー企業の場合は特にです。
企業は上場せずに投資家から出資を受けると、必然的に投資家の株式比率が上がり、投資家の承認なくして意思決定できないことが多いです。
少し分かりにくいと思いますので、参考例をご紹介します。
あるA社は、経営者が100%の株式を持つ株主だったとします。
しかしそのA社は、経営に苦しみ、資金繰りが難しくなります。
そこでBという投資家から50%分の株式に相当する出資を受けたとしましょう。
そうなるとA社の株主は経営者とBという投資家になります。A社の株主比率は経営者が50%、Bという投資家が50%になり半々ということになります。
どの投資家も出資する以上は、見返りを求めます。
出資した投資家は、投資した資金により企業が新規事業を行い、その新規事業から得た利益を見返りとして受けます。
投資した資金が無駄になるようなことに納得しない場合もあり、そうなると経営者は自分がやりたい新規事業をできない場合もあります。
企業の株式比率が偏ると意思決定は投資家の意向も含めなければなりません。
経営者としては、経営をしにくい状態になり、もはや、自分だけでの会社ではなくなってしまいます。
しかし、多くの株主が少ない株式ずつ持つことで偏りがなくなり、経営者が意思決定をしやすくなります。
上場すると、株主比率の偏りがなくなり、しかも資金を増やすこともできます。また社会的な信用もつきますので、企業の多くは上場することを希望するのです。
上場基準が下がった理由
今の日本には多くの企業がありますが、上場している企業の数は3500社ほどです。
日本には約60万社の企業数があると言われていますので、上場企業がどれだけ少ないかはご理解いただけるものと思います。
上場することは確かに簡単なことではないですが、そのなかでも昔の上場基準よりも今の上場基準ははるかにそのハードルは下がりました。
今の日本はアベノミクス政策やオリンピック誘致の影響で好景気となっています。
それまでは、リーマンショックの影響を強く受けて景気が悪く、どの企業も業績を減らすことはもちろん、倒産する企業数が増えました。
そうなると東証は、日本市場全体の株価にも影響するために企業の資金繰りの環境を改善して、倒産数を減らしたり、業績を伸ばしたりするための新規事業などを行うことができるようにしようと考えました。
その結果が上場基準の引き下げです。
それまでの上場基準では絶対に上場することができなかった企業も上場することができ、最近、上場企業数が急増したということが実際にあります。
求職者のみなさんは、上場企業を転職希望にすることは問題ないのですが、その上場企業がいつ上場したのかを考えた方が良いと思います。
昔の上場基準で上場した企業は、確かに安定した経営をしているため、資金力や規模も大きいのです。
一方で最近の上場基準で上場した企業の場合は、上場基準が引き下がったなかで上場しているため、求職者のみなさんがイメージする上場企業とは違います。
同じ上場企業でも企業内容や状況が違います。希望の上場企業に転職できたとしても、転職後に自分の求める安定感がなかったということも十分あり得ることです。
ぜひ、いつ上場したのかを求人を拾ったタイミングでチェックした方が良いと思います。