法律を知らない求職者は、転職決定しても転職成功しない確率もある!
みなさん、こんにちは。
求職者のみなさんが行う転職活動は特別な法令などがなく、ある意味自由に行うことができます。
もちろん人としてあってはならない行動は慎むべきですが、転職活動に関する法令は一切ありませんし、本当に自由です。
また、転職活動をするマーケットとなる転職市場においても特別な法令はありません。
転職市場には求職者のほか、みなさんを採用する求人企業も存在しますが、求人企業のほうには採用に規制があります。
同じ転職市場に存在する両者でありながら、求職者の方に特別な制限はなく、企業には制限がある理由や背景はご存じでしょうか。
また、求人企業が採用活動を行う上で法令からどういった制約を受けるのかご紹介したいと思います。
今回の記事の目次
転職市場における強者と弱者の力関係
労働関係に強者と弱者が存在するように、転職市場においても強者と弱者が存在します。
転職市場における強者とは求人企業です。
そして、弱者とは求職者です。
求職者のみなさんが行う転職活動においては特別な法令がない理由は、求職者のみなさんが転職市場では弱者だからです。
法令は平等の立場にありますが、もう一つの特徴は弱者である立場の者を救済するという点です。
求職者のみなさんも現職や前職で、上司との関係性をイメージしてほしいのです。
求職者の大体の方は、上司の指示には従い、その関係性も上司が強者で求職者のみなさんは弱者といった状態だと思います。
転職市場でも弱者となる求職者のみなさんに不利益な行為がないように規制し、何かあった場合に、法令を盾に議論することができるように、国は求職者のみなさんに配慮しています。
労働環境ももちろん同じ!
今回はみなさんの転職後の保護を目的として、転職後も転職活動の一つと捉えて、「法律をある程度把握していなければ転職後に損をする」という話をご紹介できればと考えています。
求職者のみなさんは現職や前職で、もちろん労働者として働いていると思います。
「私は現職はアルバイトだから労働者ではない」と勘違いされている方もいるようですが、この段階で、少し法律的な知識が弱いかもしれません。
労働基準法には、『雇用形態に関係なく、使用者(企業)と雇用契約を持つ場合はすべて労働者になる』とあります。
つまり、現職がアルバイトやパート、派遣社員(※)であっても、雇用契約関係がある以上、誰でも労働者ということになります。
現在、私は転職エージェントとして求職者のみなさんの転職支援をしているのですが、私の転職エージェントを利用いただいた求職者の中には、自分が労働者なのかよく理解していない方がときどきいます。
(※)
派遣社員については、雇用契約関係は、派遣会社との間にあり、勤務先である企業との雇用契約関係はありません。指揮命令関係という派遣特有の関係性にあります。
労働基準法について
転職後に労働者となるみなさんにとって重要なのは、何と言っても労働基準法です。
この労働基準法は弱者である労働者を保護し、強者である企業が理不尽な行為をするのを防止する目的があります。
多くの求職者のみなさんは、転職時の労働条件は気になると思います。
特に絶対条件だと思われるもの
- 労働時間
- 休憩
- 休日
- 賃金
求職者のみなさんのなかに、これらの要素のどれか一つでも知らなくて良いという方はいますか?
もしいるとすれば心が広過ぎるかもしれません…。
どのような求職者であっても、転職時に自分がどのような条件で働くのか絶対に知っておくべきです。
皆さんが仕事するのはお金を稼ぐためで、慈善活動をするためではありません。
今ご紹介した労働条件は、労働基準法でも求職者を採用する際に必ず明示するよう義務付けられています。
絶対的明示事項
求職者を採用する際に企業が明示しなければならない内容を労働基準法では絶対的明示事項と言います。
求職者のみなさんは、内定先の企業が絶対的明示事項の伝達を行わない場合、『こういう場合もあるのか』と楽観的に考えるのではなく、違法行為をしている企業だと認識してください。
法律を知らないことでそれが普通と考えてしまいますし、転職後に違法行為だったと分かってももう遅いのです。
法律的な知識を備えることで、何が正しく何が間違っているのか判断することができます。
労働関係の法律をすべて把握する必要はありませんが、一定の必要な知識を備えていただければと思います。
転職エージェントを利用しても、完全に安心することはできません。
自社の利益を優先してゴリ押しされる場合もあります。
冒頭でお伝えした通り、転職市場は特別な法令がある訳ではない自由な市場なのですが、その分100%信用できる相手もいないと思った方が良いです。
私の友人には100%転職エージェントを信用してゴリ押しに遭い、転職後に後悔している友人がいます。
労働時間の知識
労働基準法における法定労働時間はご存じでしょうか?
ほとんどの方は知っているとは思いますが、知らない求職者の方も意外と多いのです。
私は以前、民間企業の人事として働いていましたが、3割ほどの方が法定労働時間を知りませんでした。
これには
- 普通に仕事をしていると労働基準法と接する機会が少ない
- 求職者の前職の労働時間が基準になってしまっている
といった理由があります。
『前職が7時間だったので、7時間ですか?』なんて回答が多かったのです。
法定労働時間の正解は8時間です。
前職の労働時間が7時間や7時間半だったという場合は法定以下の労働時間ですので、その意味では良い労働環境だと思います。
法定労働時間と所定労働時間の違い
法定労働時間は労働基準法が改正されない限り変わるものではありません。
一方で、求人を見る際に勘違いしやすいのが所定労働時間です。
所定労働時間とは『その企業が自社で決めた残業時間を除く労働時間』を意味します。
求人に、8時間を超える所定労働時間が明記されている場合は違法行為をしていることになります。
今は国が厳しくなっているので、後々の証拠となりうる求人に8時間以上の所定労働時間を記載する企業は少なくなっていますが、まだ稀にありますので注意が必要です。
時間外労働の知識
一般的に『残業』と言われる労働は、正式には『時間外労働』と言います。
時間外労働をしっかり把握している求職者の方はどれぐらいいるでしょうか。
転職エージェントとしての経験上、人事として働いている方以外は、時間外労働を正確に把握している方が少ないように転感じます。
時間外労働の時間帯は、
所定労働時間を超えた時間から夜10時まで
翌朝5時から始業開始時間まで
です。
朝5時から始業開始時間までも時間外労働の範囲に含まれていることをご存じない方が非常に多いです。
労働時間とは労働基準法上、使用者の指揮命令下で仕事をした時間すべてを言います。
時間外労働には割増賃金という特別な仕組みがあります。
月の平均日給を所定労働時間で割って算出した時給の25%増しが時間外労働の割増賃金率となります。
割増賃金率の大本
どのような企業であっても利益率を上げるために、なるべくコストは削減したいと考えています。
しかしコスト削減にも限度があります。
一番手っ取り早くコストを削減できるのが時間外労働手当です。
ブラック企業以外は、時間外労働手当をしっかり支払っていると思いますが、なかには算出方法に問題がある企業があります。
通常は割増賃金率の大本は月給にするべきなのですが、実際にそうしている企業は相当良い企業です。
巧みなテクニックを使っている企業の場合は、割増賃金率の大本が月給ではなく基本給となっています。
月給が30万円で、その内訳が基本給15万円、その他の手当が15万円だとすると算出方法によって割増賃金率に2倍の差が出ます。
当然、15万円を大本にした方が企業からすると残業単価は下がりますし、求職者のみなさんからすると30万円を大本にした方が残業代は上がります。
企業によってはこのようにコスト削減をする企業もありますので、転職をする際は時間外労働単価の算出元が月給になるのか、それとも基本給になるのか確認した方が良いです。
違法行為でなくても、異常に基本給が低い場合は労使対等の文化がない職場と考えられますので注意が必要です。
深夜労働の知識
深夜労働を時間外労働と同一視している求職者の方もいますがこれらは別物です。
労働基準法上、深夜労働は労働者への体力的な負担が大きいとして割増賃金率を時間外労働よりも高い50%増しに設定しています。
厳密には、時間外労働の25%増し+深夜労働の25%の合算が50%になるということです。
また、深夜労働の時間帯は夜10時から翌朝の5時までを言います。
深夜時間は労働者に負荷が大きい時間帯ということで、本来は労働時間の適用がない管理職でも深夜労働手当が支給されます。
管理職をされている求職者の方でこの部分を知らずにいる方もいるかもしれませんが、改めて自分の労働条件を確認してみてください。
休憩の知識
気分転換の意味でも昼食の意味でも大切な時間である休憩にも法律的な決まりがあるのですが、具体的にご存じでしょうか?
恐らく多くの方は「休憩=1時間」という印象を持っていると思います。
労働基準法では、労働時間が6~8時間の場合は45分以上、8時間以上の労働をする場合は1時間以上の休憩時間を与える必要があるとの規定があります。
また、労働時間内に休憩を与える必要があり、所定労働時間以外の時間に休憩を与えるのは違法です。
アルバイトやパートの方は休憩を与えなくても良いとされる6時間以内の労働をする日もあると思いますが、これは特に違法なことではありません。
休日の知識
休日と似た言葉に休暇というものがあるのですが、この違いもしっかりと把握しておきましょう。
労働基準法では、休日は『労働義務のない日』であり、休暇は『労働義務のある日に労働が免除される日』とされています。
多くの企業では土日を休みにする週休2日制を持っていますが、この休みがすべて労働の義務がない日、つまり休日になると考える方が多いです。
正しくは「土曜は休暇で日曜は休日」です。
そして、この休日と休暇によって支払われる給料が変わってきます。
みなさんは、土曜に休日出勤しても本来の休日労働手当より低い金額が支給されたことはないでしょうか?
土曜は休日ではく休暇になりますので、休日労働ではなく時間外労働をしているとみなされます。
休日労働となる日は日曜だけなのです。
ある求職者は、内定をもらった企業の通知書に「土曜に出勤しても休日労働とはならない」と書いてあったため辞退しようとしていたのですが、今お伝えことについて説明したところ、初めて知ったという驚きと、違法の企業ではない安心感でその企業へ転職しました。
これは法律を知らなかったことで違法でない企業を勘違いしてしまいそうになったケースです。
法律は確かに難しいのですが、ある程度の労働基準法ぐらいは把握しておきましょう。
賃金の知識
企業は賃金を現金で支払う必要がないということをご存じでしょうか?
変な話、月の給料を米俵で支払っても全く問題ないのです。
これを現物給付と言い、お金で給料を支払う通常の形態を現金給付と言います。
現物給付をするには、企業が労働組合と労働協約という契約を結ぶ必要があります。
かなり昔は実際に現物給付をしていた企業もあると聞いていますが、今の時代はほとんどないと思います。
ただ、たまに給料の一部を自社のポイントで還元するという企業もあるようですので、このあたりも違法ではないことをご理解いただければと思います。
賞与も賃金!
転職後に受ける賃金は給料だけではなく、年に数回の賞与も入ります。
この賞与こそ知識を持って求人や内定を判断してほしいと思います。
と言うのは、私の転職エージェントを利用している求職者の方は賞与の部分についての問い合わせが非常に多く、基本知識が少ない方が多いためです。
まず、賞与は企業が必ず従業員に支払わなければならないものではありません。
労働上ノーワークノーペイの原則というものがあり、企業は労働者の労働の代償として毎月給料を支払っていればそれで問題ありません。
つまり賞与とは、企業に利益が出た場合に任意で支払われるものです。
企業によっては、それを避けるために、あえて年俸制にしているところもあります。
また、次にお伝えする点の相談が非常に多いです。
大体の場合、賞与は夏季と冬季で年2回支給されることが多いです。
仮にある企業が4月から9月までを上期として、その業績により12月に賞与を支払うとします。
この場合、12月に賞与を受け取れるのは4月から9月まで在籍していた従業員というのが普通です。
もし、この期間の途中に転職した場合は、在籍日数の日割り計算で賞与が計算されます。
逆に、ある労働者が4月から9月まで在籍していて、12月に支払われる予定の賞与前にその企業を退職して転職したとすると、賞与を受ける権利がないのです。
この内容は内定通知書によく記載があるのですが、疑問を感じても企業に直接聞きづらく、勝手に違法だと考えて辞退してしまう方もいるようです。
確かに転職前は質問しにくい範囲のことですが、賞与についての正しい理解を持って合法と違法の区別をしていただければと思います。
住宅手当と賞与のからくり
住宅手当を月給に含めている企業があります。
そして、この住宅手当にも求職者が把握できない裏事情があります。
特に賞与や時間外労働手当などの算出には、この住宅手当が大きいです。
分かりやすく例を取ってご紹介します。
A社は月給30万円で、その内訳は基本給が30万円とします。
そしてB社は月給30万円で、その内訳が基本給20万円で住宅手当10万円だとします。
月給だけを見るとどちらも変わりないのですが、先ほどお伝えしたように時間外労働をした際の算出元には基本給が使われます。
基本給が高い方が絶対的に労働者としては得です。
賞与についても、ほとんどの企業はその算出の大本は基本給です。
残業代と同じく基本給が高ければ、それだけ高い賞与を得ることができます。
A社、B社ともにある夏季の賞与の算出月数が2カ月だとします。
A社の場合、30万円×2カ月ですから60万円の賞与額になります。
一方、B社の場合は基本給が20万円ですので20万円×2カ月で40万円の賞与額になります。
月給が同じ30万円でも賞与に大きな開きが生まれます。
これが年2回の賞与だとすれば、年間40万円の開きができます。
このように賞与額を抑えるために、あえて基本給を抑えて賞与の算出に含まれない住宅手当に厚みを持たせている企業があります。
求職者にとって住宅手当はうれしいことだと思いますが、その裏で賞与や時間外労働の算出にどのような影響があるのかチェックした方が良いです。
通勤手当の知識
通勤手当は福利厚生の一部と考えている求職者の方がいますが、通勤手当もれっきとした賃金です。
いずれにしても社会保険料の計算の基礎に含まれますので、ご認識いただければと思います。
転職後も転職活動の範囲に含めましょう!
私は転職エージェントを利用いただく求職者の方に日頃からお伝えしているのですが、企業から内定をもらうまでが転職活動ではありません。
転職後も一定期間は転職活動です。
内定を受けても、その企業では自分の理想通りに働けないこともあります。
それを防ぐためにいくつか危機回避するポイントはありますが、その一つとしてある程度の法律知識は必要だと思います。
法律を理解しているからこそ、中立的な立場でその求人企業の労働環境が適正かどうかを見極めることができます。
法律さえ理解していれば、転職エージェントを利用せずとも求人企業がどうなのか正しい知識で判断することができます。
私も以前は求職者として転職活動をしたことがありますし、私の友人も転職活動を経験した友人が多くいますが、どうしても労働条件を前職と比較してしまう傾向があり、正しい視点で企業を見極めるのが難しくなってしまいます。
求職者として弱者である自分を守るためには、ある程度の法律を把握して自分の保護に努めるのも必要だと思います。
法律を知らない求職者は、転職決定しても転職成功しない確率もある!
今回は、みなさんにとって切っても切り離すことができない労働時間、休憩、休日、賃金についてご紹介しました。
情報は求職者の武器であり、転職後は財産になります。
法律を知っていれば内定承諾することはなかった企業へ転職してしまい、転職後に充実した働き方ができないということもあり得ることです。
実際、このような求職者の方は何人も知っています。
転職してから後戻りすることはできません。
試用期間中に退職しても、前職に戻ることはほぼ不可能です。
この意味でも、求職者、そして転職後に労働者となるみなさんは弱者です。
転職活動でできることはすべて全力で頑張りしょう!
最後になりますが、求職者のみなさんの転職活動が有意義なものであると心から祈りこれで話を終わりにしようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。