法律を知らない求職者は、転職決定しても転職成功しない確率もある! (第二回)
今回は、求人や内定通知書、雇用契約書、その他就業規則や賃金規定など転職後にどのような条件で働くことになるのかを知る書類と法律をご紹介できればと思います。
求職者のみなさんは、転職活動中は、求職者という立場になりますが、転職後は、どのような求職者であっても労働者になります。
求職者のみなさんは、弱者である労働者として転職後に余計な苦労をする必要がないように、転職後に自分がどのような環境で働くことになるのかを確実に抑えておくのが必要です。
私は現在、転職エージェントとして求職者の方の転職支援をさせていただいていますが、なかには労働に関する法律の知識がほとんどないことが転職に悪影響を与えているような方もいます。
それではせっかくの転職がもったいなく人生にも影響しますので、これを機にしっかり法律を理解しましょう。
雇用契約書と労働契約書
みなさんが企業からの内定を承諾すると、大体の場合はその日のうちに雇用契約書または労働契約書を取り交わすと思います。
この雇用契約書・労働契約書の意味がよく分からないという求職者がいますので、解説したいと思います。
まず雇用契約書と労働契約書は、言葉は違えど中身はすべて同じです。
雇用契約書とは民法上の表現で、労働契約書とは労働基準法上の表現です。
企業によってどちらを使うか文化があるのですが、どちらであっても求職者のみなさんに特別影響を及ぼすことではないのでご安心ください。
たまに雇用契約書と労働契約書の二つを取り交わすような企業もありますが、違和感を持つ必要は全くありません。
その企業はかなり法律に関して慎重なタイプの企業だと思うので、逆に法令順守を徹底していると前向きに考えても良いと思います。
雇用契約書と労働契約書の形式と内容
問題は、この雇用契約書と労働契約書の形式と内容です。
最近は雇用契約書と労働契約書をメールだけで完結する企業もありますが、転職エージェントである私が知る範囲では、こういった企業にまともなところはないと思った方が良いです。
かなりずさんな契約管理をしていると思いますし、転職後に言った言わないの問題に発展することもあります。
雇用契約書と労働契約書を取り交わす際に、絶対に記載される必要がある内容
- 労働時間
- 休憩
- 休日
- 賃金
- 勤務場所
- 仕事内容
など
知識があれば、その場で明記されていない範囲について企業へ指摘することもできますので、絶対的明示事項については把握しておいてください。
定年の年齢
最近法令が改正されて、企業における定年の年齢が60歳から65歳に引き上げられました。
転職エージェントをしていると、多くの雇用契約書と労働契約書についてアドバイスをすることが多いのですが、いまだに定年を60歳としている企業があります。
ただ、定年が60歳だからその企業が必ず危険とは言えず、どちらかというと人事が法律改正をしっかりキャッチしていない『うっかりミス』という場合が多いですので、間違った表記があっても特別気にすることはないと思います。
中には定年を70歳としている企業もあり、この場合は法令を大きく上回る好条件ですので、人を大切にしている良い環境があると思います。
今転職活動をしている求職者のみなさんは、20代~40代の方が多いと思いますし、定年について、まだそれほど気にする必要もないのかなと思います。
退職金の有無
求職者には、退職金について今までとは違う動きがあります。
今までは退職金を気にする求職者は少なかったのですが、最近は若い求職者でも退職金を気にする方が増えています。
退職金とはその名の通り、労働者が企業を退職した際に企業から受け取ることができるお金になりますが、「退職金=定年退職者」という間違えたイメージを持っている方が多いです。
退職金は定年退職した労働者に限らず、その企業が退職金規定を持ち、一定期間在籍していれば誰でも受け取ることができます。
退職金の支給は企業の義務規定ではない!
雇用契約書・労働契約書に必ず退職金の記載があると勘違いしている方がいます。
労働基準法では、退職金は絶対的明示事項に含まれていませんので、退職金についての記載はなくても問題ありません。
退職金については相対的明示事項ということで、その企業に退職金の規定があれば記載する必要があるといった形です。
どの企業にも退職金の規定があると勘違いしている求職者もいますが、退職金の規定は企業の判断に委ねられていますので、規定自体がない企業も多くあります。
この勘違いは、求職者の現職が大手企業であり、内定先がベンチャー企業の場合に多くあります。
大手企業の場合は退職金の規定が当たり前のようにありますが、ベンチャー企業では働く従業員の年齢層が若いので、退職金の規定を作る必要性があまりありません。
前職や現職の文化がすべて正しいということはなく、あくまで基準は法律ですので、前職や現職の文化を中心に転職先の労働条件を考えてはいけません。
私の転職エージェントを利用している方には、大手企業に在籍していてベンチャー企業からの内定をもらい、退職金の規定がないだけで辞退しようとしている方がいました。
これは単純に法律の知識不足になりますので、みなさんはこのようなことがないようにしましょう。
就業規則とは?
企業は、雇用契約書と労働契約書の取り交わしの場で就業規則と賃金規定も配布することがあります。
就業規則とは、その企業で働く労働者の行動規範を明記したものです。
しかし、単純にその企業が独自に行動規範を作るということはなく、必ず法律にのっとった内容で作られています。
法律を上回る良い就業規則を設定している企業もありますし、真逆の企業もあります。
就業規則や賃金規定の内容に法律を下回る内容が記載されている場合は、その内容が無効になり、その無効部分は法律に準拠するということになります。
法律を下回る内容が記載されている場合、すべての内容が無効になるという解釈をしている求職者もいますが、それは違います。
あくまで、無効部分の一部だけが無効対象になります。
就業規則と雇用契約書と労働契約書の関係性
雇用契約書と労働契約書は労働者ごとに内容が異なりますが、就業規則や賃金規定はその企業で働く労働者すべてに適用されるものです。
しかし、労働基準法では、雇用契約書と労働契約書の内容が就業規則や賃金規定と同様の内容であれば、その内容を就業規則や賃金規定でカバーしても良いとあります。
手間を省く意味でも、このことを取り入れている企業はそれなりにあります。
このタイプの企業を「雇用契約書と労働契約書がないから危険だ」と判断する方もいますが、それは真逆です。
むしろ、その企業は法律に詳しいコンプライアンスを重視する優良企業である可能性が高いです。
人事が法律に詳しく経営者に対して法律を遵守するよう積極的に提案していると思われますので、転職後の働き方も安心・安全を担保した状態で働くことができると思います。
振替休日と代休の違い
求職者のみなさんが内定承諾時に理解できてない代表的な内容が振替休日と代休です。
この二つの違いを明確に理解している求職者は恐らくほぼゼロだと思います。
と言うのは、私が以前企業の人事として仕事をしていた際、在籍していた企業の労働者にこの二つの違いを知っている人は誰もいなかったのです。
労務を仕事の範囲とする人事でも分からない訳ですから、求職者のみなさんも知らないとのが普通かもしれません。
転職エージェントでも、若い方で区別が付いている方はゼロに等しいと思います。
それぐらい難しい内容ですが、転職後に働く上で大事なことになりますので、ぜひ内定承諾時の交渉に役立てていただければと思います。
振替休日の説明
振替休日は、休日に出勤する場合を労働日に振り替えて、労働日となる日を休日に振り替えるという意味です。
簡単にいうと、振替休日とは休日と労働日をトレードすると言う意味になります。
問題は、本来休日である日に労働した訳ですから、休日出勤手当は支給されるのかどうかです。
求職者のみなさんは、内定承諾の際にこの点をぜひ注意してほしいのですが、振替休日はトレード扱いですので、休日出勤手当の支給は対象外です。
代休の説明
一方、代休は振替休日と似ているようで全く違った性格を持ちます。
本来、代休という言葉は労働基準法に記載がありません。
代休は休日と労働日をトレードするのではなく、休日出勤手当が支給されますし、労働した休日の代わりに他の労働日を休日にすることができます。
振替休日は、あらかじめ休日と働く日を定めておくのですが、代休はあらかじめ定める必要がありません。
労働者にとっては、振替休日よりも代休のほうがメリットはあると思います。
求職者のみなさんに多い相談は、振替休日で休日出勤したにも関わらず、休日出勤手当が支給されない規定が記載されているというものです。
それにより『転職したかった企業だけどブラック企業かもしれない』という不安で辞退してしまうこともあります。
求職者のみなさんは労働者のプロですし、転職活動においては求職者のプロです。
法律の知識が浅いばかりに無意味な辞退をしてしまわないようご注意ください。
有給休暇について
求職者のみなさんは、現職や前職に有給休暇の制度があると思います。
有休とも言いますね。
この有休は、労働基準法で当然に与えられた権利であるということをご理解ください。
『有休はインセンティブの一つ』となっている企業もあるようですが、有休は当然に与えられた権利で、経営者や上司のさじ加減で決めることができるインセンティブではありません。
『君はよく頑張ったよ。だから今回は有休をあげよう』という会話があれば、それはかなり怪しい企業です。
そして恐ろしいことに、雇用契約書と労働契約書などで、有休がインセンティブの枠に入っている企業があります。
転職エージェントとして何度か見たことがありますが、今時でもこのようなことをしている企業が存在するのかと驚いたことを鮮明に覚えています。
少し前の日本にはブラック企業が横行していましたが、最近は国がブラック企業撲滅に動いているため、有休も適法で運用している企業が多いです。
何度も言いますが、有休はインセンティブではなく労働者にとって当然に与えられた権利です
有給休暇の日数
有休の付与日数も正確に把握していない求職者が多いですので、雇用契約書と労働契約書などを確認する際に役立てていただきたいです。
有休は入社日から半年後に10日付与され、それ以降1年ごとに11日、12日と増えていき、最大20日まで付与されます。
最近多い有休パターンは入社日に5日の付与があり、半年後に残りの5日を付与されるといった場合です。
本来、入社日から半年経過しなければ付与されない有給が入社日から付与されるのは有利です。
一方、半年経過しても有給の付与日数を10日未満とする企業もまだあります。
なかには、雇用契約書と労働契約書に有休の記載がない企業もありますが、これは遠慮なく確認した方が良いです。
転職エージェントを利用している求職者であれば転職エージェントに必ず相談するべき点です。
有休のために転職をする訳ではありませんが、絶対的明示事項である有休の記載がない企業は、転職後に良い労働環境で仕事ができない可能性があります。
有給休暇の消化
何度も言いましたが、有休は労働者にとって当然に与えられた権利ですので、いつどのような理由で有休を使うかはその労働者の自由です。
ただ、有休は労働基準法が持つノーワークノーペイの原則から逸脱している内容ですので企業にも考慮された部分があります。
この有給の考慮範囲を違法行為だと考えて、前向きに転職を考えていた企業に不信感を抱く求職者もいるようです。
有休は基本的に労働者がどのように消化しても問題ないのですが、労使協定というものがあり、企業は有休のすべての日数を与える必要がないのです。
これを、『有休の時季指定権』と言います。
この時期指定権は、企業が繁忙期の際に有休を一気に使われてしまっては事業運営に対して妨げになる可能性があるということで、企業が定めた時期に有休を与えられるというものです。
有休の時季指定権は違法行為ではなく、特例として企業に認められている権利ですので、誤解がないようにしましょう。
補足で労使協定について説明します。
労使協定とは、企業とその企業の社員が契約を結ぶこと言いまして、ある内容について合意すれば労働基準法で認められない範囲も認めますよという証明書のようなものです。
有休の時季指定権もそうですが、様々な労使協定を締結することで認められない範囲が認可されるということになります。
労使協定の代表例は三六協定です。
今は残業は当たり前の世の中ですが、労働基準法では本来、企業は労働者に残業させてはならない決まりがあります。
その認められない残業を認める証明書として三六協定があります。
残業代を支払っていても、三六協定がない場合はその企業は違法行為をしていることになります。
なぜ、三六協定と言うのかと言いますと、労働基準法36条に特化した内容が三六協定に含まれているためです。
有給休暇の有効期限
付与された有休はすべて使い切れればベストなのですが、現実的に使い切るのは難しいと思います。
今の日本の有休消化率は50%強ということで、残りの約50%は消化されていません。
有休には有効期限があります。
個人的に、有休に有効期限を設けている意味がよく分かりませんが、労働基準法では有休の有効期限は付与日から2年と決まっています。
なかには労働基準法を上回って有休の有効期限を設定しないという企業もありますが、その数はかなり少ないです。
求職者の方には、有休は知っていても雇用契約書と労働契約書で有効期限があるということを知りネガティブに考える方もいます。
ご自身の知識不足が原因で、合法な企業にネガティブな感情を抱いてしまうことがあります、それではせっかくの転職活動が無駄になってしまいます。
企業の中には有休を買い上げる企業もあり、これは求職者のみなさんにとって有利な条件だと思います。
始業時間前に出勤すること
雇用契約書と労働契約書には、始業時間と終業時間が必ず明記されていると思います。
遅刻しないよう始業開始前に出勤していれば何ら問題ないのですが、企業によっては始業開始前、1時間や30分前に出社して清掃することを義務付けている場合があります。
労働基準法では、始業開始前の清掃時間は労働の一部としているため、本来は残業代の支給対象の時間になります。
労働者が自由意志ではなく、指揮命令下の時間はすべて残業と明記されています。
その意味で本当は残業代の支給はあるべきなのですが、転職先で清掃時間に残業代がないとして内定を取りやめることは、転職エージェントである私の経験上、浅はかだと感じます。
清掃は労働というよりも前向きな意味での文化だと思いますし、自分が働く企業の社内を自分の手で清掃することは求職者にとっても良いことだと思います。
そうは言っても、私の転職エージェントを利用いただいた女性の求職者で、始業開始前に残業代が出ずに清掃をするのが納得できないとして内定を辞退した方もいます。
気持ちは分からなくもないですが、清掃以上に嫌なことはどの企業にもありますし、そもそも転職しないのが身のためではないかと思います。
試用期間の意味
次に、試用期間についてご紹介します。
私もかつて転職をした求職者でしたが、内定通知に試用期間があるとあまりうれしくありませんでした。
なかには『試用期間があることで、不満があれば何の問題もなく退職できる』と考えている方もいますが、それは試用期間でなくても、何ら問題なく退職することができます。
試用期間はあまり前向きに捉える部分ではないと思います。
試用期間は、企業が雇用リスクを軽減するためだけのものです。
求職者のみなさんからすると良いことは一つもありませんよ。
企業は一度求職者を採用すると、試用期間以外は原則解雇してはいけないということになります。
そのため、選考中に持った評価と転職後の貢献度に違いがあった場合にすぐ解雇をできるように試用期間を持っているのです。
求職者にとっては試用期間がない方が絶対に有利です。
また、試用期間中に社会保険の加入義務はなしと記載している企業がありますが、これは違法です。
社会保険料の支払い義務がないとして喜んでいる方もいるようですが、法律の知識さえあればどれだけ求職者のみなさんに悪影響をもたらすか分かると思います。
労働基準法と求人、内定通知書等
これまで、法律が求職者のみなさんにどれほど密接な関係にあるのか、また法律を知らないことが転職活動や転職後にどれほどマイナスの影響があるのかご紹介しました。
あくまで転職活動は、転職後にホワイトな労働環境でやりがいを持って働くための手段に過ぎません。
視点を高く中長期的に考えて転職活動することで、自然に必要な情報が何か分かると思います。
転職エージェントとしての経験上、法律の情報をしっかり把握している方とそうでない方では転職活動、特に内定時の判断に大きな違いがあります。
自分の身を守るために、法律的な知識はぜひ身に付けてほしいと思います。
最後になりますが、求職者のみなさんの転職活動が有意義なものであることを心から祈り、これで話を終わりにしようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。