面接官が語る「強気一点張り」

一見地味だが話し出すと・・・

転職面接は、多少でも社会人経験がある人が対象なので新卒ほど緊張しないのは経験上わかっていましたが、その時の彼は緊張するどころかすごいアピール力でグイグイ押してくるタイプでした。

事前にもらっていた履歴書の写真は、おとなしい、どちらかといえば地味な風貌でした。

当社の扱い品目は工業原料だったので、営業マンに外観上求めるものは何もなく、どちらかといえば実力と経験さえあれはよかったのです。

面接ルームに入室してきた時の印象は、履歴書の写真そのままで、また身長も低い方で全体として目立たない感じでした。

しかし、第一印象がゴロッと変わったのは話し出してからです。まず簡単な自己紹介を求めたのですが、非常に落ち着いた低めの声でしかもゆっくりと話し始めました。

入室時に低く感じた身長も、椅子に座って対峙すると目線が同位置になってすごく堂々と見えました。面接官一同、これはいけるかもとかなり期待して面接を進めました。

押し出しの強いタイプ

こういう押し出しの強いタイプの場合、前職でなにかトラブルがあった場合があるので、そこは慎重にいくつか質問をしました。

「山本(仮名)さん、自己紹介ありがとうございました。なかなか立派なキャリアをお持ちなんですね。それだけ前職で活躍されていたのなら、辞められたのがなにかもったいないように思うのですが・・・。」

『あまり気にしていないんです。会社も小さかったし、あのままいても便利使いっていうのでしょうか、いいように使われるだけであまり成長がないと思いました。転職することに引け目や未練を感じることはまったくありません。転職はいわば脱皮のようなものと考えています。』

脱皮と言う単語は、最初ちょっと意味がわかりませんでしたが、爬虫類の“脱皮”のことだとありになってわかりました。確かめる意味もあって、気になっていることをストレートに聞いてみました。

「なにか脱皮のきっかけとなるトラブルがあったのですか?」

『いえ、まったくありません。私が突然転職を言い出したので、向こうは晴天の霹靂のような顔をしていましたが、私なりに筋は通すとともに、引継ぎも完璧にして迷惑かけないようにしてきました。』

「あなたが、突然退職を言い出すことそのものが迷惑ってことはなかったですか?」

『う~ん、会社は想像以上に自己蘇生能力があり、誰か辞めると次の人が育つようにできていると思うのですが、御社だって同様じゃないでしょうか?』

明確な志望理由と貢献目標

“脱皮”といい“自己蘇生能力”といい、こっちが、「う~ん!」と言いたくなりました。

言葉が難しいのですが、いちいち端的でした。実際ごもっともなんだけど、逆質問されてここで応募者と議論しても仕方ないので気を取り直し、もう少し聞き込むことにしました。

「はい、特に前職は問題なく辞められたということですね。わかりました。では、次の質問ですが、山本さんが当社に入られたら何ができますか?」

『営業職なので、まず営業目標については意に沿える形で貢献できると思います。もちろん、他の先輩営業職の方々の経験年数に見合った私の目標という前提です。前職でも目標予算を下回ったことはありません。ちなみに、御社は予算は受注額か計上実績額か、どちらを採用されておられますか?』

「当社は計上実績額を目標にしていますが、なにか質問に意図はありますか?」

『はい、私は営業職の目標管理は計上額至上主義がいいとかねがね思っております。前職では受注ベースだったのですがこれはなかなかわかりにくいので、私の場合は計上額を敢えて提出して自己管理していました。受注ベースは、営業マンに受注キャンセルによる予算切れの口実を与えてしまいます。

それと、先ほど言えなかったのですが、営業目標達成以外、御社の扱っておられる工業原料ビジネスは私の大学時代の専門専攻だったので、ゼミの先輩や同期の連中がけっこう同業他社や川下の商社におり、人脈ネットワークがたくさんあって、この点でも貢献できると思います。』

面接と言うより売り込みに近いトーク

彼は、人脈の取れる具体的な社名(ただし、イニシャルでぼかされましたが)まで言ってくれました。要は、営業目標は達成するし、人脈も十分あると売り込んできたわけです。

当時の当社では、出てきたイニシャルのT社への切込みは垂涎の的だったので、面接官一同ちょっと気色ばみました。興味があるのは確かでしたが、ここで具体的な詳細に突っ込んで場違いなので、一旦、はずしました。

面接者も、面接官が自分の発言に興味を持ったというのを感じたのか、ちょっと自慢気な空気を感じました。

「山本さん、すごいですね。いろいろな人脈を持ってらっしゃるんですね。前職でもその人脈は使われたのですか?」

『正確に申しますと、前職は同じ工業原料でもちょっと汎用性が違うので、T社やD社はターゲットにはしていません。このあたりの事情は、御社の方が詳しいと思いますが、御社はD社との取引は多いのでしょうか?』

あえて知っていて聞いた質問だったのですが、向こうもよく知っていてスルリとかわされました。逆質問で、D社の取引を尋ねてきたのにはびっくりしました。その時の当社の営業部隊は、D社へは猛アタック中だったのです。

他社の受験状況に驚き

この頃からちょっとただ者ではないなと感じていました。面接は、普通は会社側が選択権をもって優位にすすめるものですが、この時ばかりは「こっちが選ばれているなあ」とさえ感じました。

応募者も当然、自分に合った会社をあちこち探して選ぶ権利があり、まさか当社だけに応募しているとは考えにくく、その態度や応答ぶりから同業他社の複数受験は容易に予測できました。

こういう場合は、はっきりと質問をすることにしています。

「ところで、山本さんは今回の転職で他社は受けられていますか?差し支えなければどちらを受験されているか教えてもらえるでしょうか?」

『はい、まず御社と同業の商社ではS社を応募しています。それから工業原料メーカーでは、さきほど話の出ていたD社です。こちらもタイミングよく中途採用をされていたので応募しました。あと、専門商社のX社です。X社からは内定をもらっているのですが、条件面で折り合いが付かず、来週面談の予定が入っています。』

同業他社をある程度は受験していることは想定していましたが、一気に3社出てきたのでちょっとびっくりでした。

しかも、X社から内定をもらっているのに当社を受けに来ているのは驚きです。なぜなら、X社は当社より業界ランクは上だったからです。

一次面接通過をほのめかし一旦終了

「はい、わかりました。すごいですね、D社は当社とお付き合いさせてもらおうかなと思っている矢先でした。内定をもらっているX社には行かれないのですか?あそこなら条件面はいいんじゃないですか?」

『そうですね、条件の詳細は控えさせてほしいのですがこれから受けるS社、そして御社との兼ね合いもあり、相談に行きたいと思っています。今回の転職は、私にとって人生の節目でもあり、じっくり企業研究したいと思っております。』

肝心の部分ははぐらかされましたが、正論と言えば正論でした。当社も、まだ彼に対しては初めての第一次面接であり、少し時間をかけた方がいいと思い、それ以上深追いはしませんでした。

ただ、「当社もあなたには興味は持っている」というメッセージは残しておきたかったので、以下のコメントで二次面接の可能性をほのめかして面接を終了しました。

「そうですよね、おっしゃるようにいろいろな条件があるでしょうし、じっくり各会社とお話しされた方がいいと思います。当社については、今回、あなたを含めてかなりの人数の方が応募してくれていますので、選考は今週いっぱいかかるかなと思っています。

ところで山本さん、今回の一次面接結果を受けて、来週半ばあたりに二次面接を計画しているのですが、日程的にはご都合いかがですか?」

『はい、来週半ばぐらいだと、まだ大丈夫です。』

この返事を受けて、面接は終了いたしました。

“当社に合わないキャラクター”だからこそ・・・

これまでの応募状況や具体的な応募者のレベルから、ずっと買い手市場という感覚でいたのですが、久々の売り手市場になった気がする面接でした。

まったく珍しいケースでもないのですが、立ち会ったもう一人の面接官とコンセンサスをとるために、面接終了後採否ミーティングを行いました。

もう一人の面接官ははっきりと「不採用」の意を表しました。理由は、当社に合わない、という理由です。

具体的には当社の営業マンとのチームワークがなかなか取れにくいキャラクターであるということでした

。なんでもビジネスライクに割り切り、持論を主張しながら仕事を進めていくので周囲は戸惑い、結果的にチームワークを乱すのでは、というわけです。

私自身は、もっと他の面接官の意見を参考に多面的に見ていきたいという意見を述べ、一旦は一次通過ということにしてはどうかと伝えました。

もうひとりの面接官との違いは、「当社に合わないキャラクター」というのが逆に気に入ったと説明しました。

組織は同類項でくくれる人材ばかりだと、しのぎあいや葛藤が生まれず沈滞するだけというのが私の持論でした。

まとめ

翌日、当事者に電話を入れ、是非二次面接に進んで欲しい旨を伝えたところ、本人は断りを入れてきました。

面接でも話していたS社に行こうと思っているとのことでした。面接では、S社の提示してきた労働条件に納得していないと言っていたが、クリアできそうなので内定を受理しようと思っていると言い、丁重に断られました。

ちょっと残念でしたが、去る者追わずで深追いはしませんでした。これを逃げられたというべきか、志望者側が会社を選別をした当然の結果と言うべきか難しいところですが、当社にとってはいい経験となる面接でした。

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