面接官が語る「夢を見ている人」

執筆者の情報
名前:永井 成果(仮名)
性別:女性
現在の年齢:47歳
面接の経験人数:約500人
面接経験時の役職:-
企業・業種:-

履歴書からのイメージはクリア

中途採用で人材募集をする時は、募集人材におおよそのイメージを持っています。職種は募集要項に明記する他、年齢幅や前職の経験度、キャラクターなどを想定して面接に臨みますが、いつも想定通りの応募者があるとは限りません。

今回の面接体験でお話しする男性は、一応その時の募集職種を見ているようですが、質問すればするほどミスマッチの溝が深まる面接でした。

その時の募集職種は営業職でした。理想としては20歳代後半から30歳代前半で、前職で営業職の経験を持っていて、できれば当社と同業の会社であれば尚良いという想定でした。

応募してきたその人は、履歴書を見る限りでは年齢も前職の業界も職種もクリアしており、楽しみにしながら面接をスタートしました。

面接ルームに入ってきたときの印象は好青年という感じで、前職の営業マンスタイルがそのまま入室のマナーになっているようで物腰は柔らかく最初の例も板についた感じで、我々面接官一同、これはイケそうだなと感じました。

第一声の自己紹介もよく通る声でしかりとした口調でした。

本当にしたい仕事は何?

履歴書通り、業界はほぼ一緒で原料メーカーか商社かの違いで、いわば買う側か売る側かなので業界知識は十分すぎるほど持っていました。

商社である当社での営業は、売先事情と売方さえわかれば即日働けるレベルで、条件さえ合えば即決できそうな感触でした。

面接の中ほどに差し掛かり、営業スタイルや将来の希望を聞き出すためにこんな質問を投げてみました。

「〇〇さんは、前職ではどんな営業の仕方をやっておられたのですか?また、当社に入社されたらどんな営業をしていきたいとお考えでしょうか?」

『はい、前職では営業を6年やりました。履歴書にも書きましたように御社のような原料商社にお願いして、販路を開拓していく仕事です。ただ、当時先輩から引き継いだお得意様との維持だけでせいいっぱいで、新たに開拓という意味ではなかできていませんでした。

もともと前職に入社した時も、希望は商社さん、販社さんと一体となって、メーカー品に付加価値を付け市場に売り出していくマーケティング部門を希望していました。実際には、ただ単に御用聞き的な営業しかできていませんでした。もし、御社に入社させていただいとして私のやってみたい営業は、どちらかというと企画的な営業で、エンドユーザー様に新しい提案ができるそんな仕事をイメージしています。商社こそその役割ができると思っています。』

「そうですね、営業とひとことで言っても実際にはいろいろな提案をしていかないと売上は増えないので、〇〇さんのおっしゃる企画的というか販売促進的な要素は必要ですね。その意味では当社の営業スタンスも一緒ですよ。たとえば今、こんなことをしてみたいと思われているアイデアとかお持ちですか?」

『3年後に開催される〇〇博覧会に合わせて、メーカーさんとタイアップし新素材や新製品の開発プロジェクトを立ち上げてはどうかと思っています。もちろん資金は必要ですが、〇〇博覧会はご存知のように県や市も協賛しておりうまく交渉すれば経費を引き出すことは可能ではないでしょうか?』

前職でできなかったこと

ここまできて、応募者さんの考えているニュアンスが、我々の募集する営業職種とちょっと違ってきていることを面接官全員が感じ始めていました。

ただ、彼の言っていることが単なる思い付きでなく、これまでの営業経験や自己啓発から真剣に考えてきたものであれば無視する話でもないので、さらに突っ込んで聞くことにしました。

「ほ~、それは前職時代から考えておられたのですか?商社が仕掛けることもあるかもしれませんが、あなたが前職勤めておられたような、資金力のあるメーカー側が仕掛けた方が実現性があるのではないかと思うのですがいかがですか?」

『私の勤めていた前職なら本来マーケティング部がやるべきことだと思うのですが、古い体質の企業でそんなセンスを持ち合わせた社員はおりません。私が前職に見切りをつけたのもそんな体質が嫌だったということもあります。商社である御社なら、売先にたくさんネットワークを持っておられ、コーディネーターとしては遜色ないと思います。』

「う~ん、ちょっと話が逸れたのですが、要するにあなたは当社に入社してそういった企画をやりたいということなのですか?」

『そうですね、たとえばの例で申し上げたのですが、入社してすぐということではありません。営業でしばらく経験を深め、売先とのネットワークを作ってそんなことも出来ればと思っています。』

「ところで、前職での営業マンとしての成績はいかがでしたでしょうか?」

『前段にも申しましたように、既存の取引先を定期的に訪問して注文をもらうという営業がほとんどだったので、ほぼ前年並みといったところです。また、私が担当していた取引先も新しい提案に乗ってくるような会社はほとんどなく、事なかれ主義的な担当者ばかりでした。』

他社の応募状況からわかること

応募者の話をずっと聞いていると、応募者の気持ちの中に前職で果たせなかった「無念さ」があるのを、言葉端々から感じました。

前職で実現できなかった夢を転職することで実現したいというのは、転職者にはありうる話ですが、その夢がどんな夢であるのか、またその夢に向かってどんな勉強をして、どんな実力を蓄えているのか、ここが「本気度」を見る分かれ目になると思い、最後にこんな質問をしました。

「〇〇さんは、当社以外、どんな会社を受けられているのですか?職種も教えていただけますか?」

『はい、工業用原料商社は御社だけで、イベント会社の営業、自治体の企画職、流通企業の地域開発担当とかです。』

「会社自体にあまり関連性はありませんね?軸はどちらかといえばやはり企画系ですか?前職の営業経験とは関係なく企業探しをされているようにお見受けしますが、どうなんでしょうか?」

彼の返事を待つまでもなく、志望している企業や職種を答えた時に彼の理想は察知できました。

夢を見る企画マン

今回の当社の募集職種は営業職だったので、面接の途中から彼への興味をなくし始めていました。彼にとっては営業の仕事は企画の仕事への入口で、営業そのものには興味を示さないというのが正直なところだと思います。

それは、前職での営業活動について話を聞いた時にだいたいわかりました。

しかし、仮に「企画職」募集だったら彼に興味を持ったでしょうか?答えは「ノー」でした。当時、当社にも企画系の仕事をしているメンバーがいましたが、タイプは全然違いました。

当社の企画担当は実は営業経験者だったのですが、今回の応募者との決定的な違いは、非常に優秀な営業マンであったことです。人事異動で営業から企画へ移る話があった時、非常に残念がりました。

しかし、今では逆に営業時代の経験が生きて素晴らしいプランナーになっています。

今回の応募者の企画センスはわからないとはいえ、少なくとも現場で一生懸命にモノを売るという営業に打ち込まず、大それた仕掛けを考えているのは自身の実力とは別に夢を見ているとしか言いようがない事例でした。

この記事の筆者

永井 成果(仮名)
企業で何人も転職者の面接をしてきました。

その後、私自身が転職し、今度は反対にその経験から転職者を支援する仕事もしました。

企業の面接経験では、こんな人は絶対受からない、逆にこういう人は非常に好感を持たれ面接をパスできる人だというのがよくわかり、一方、支援する仕事ではそれを転職者にアドバイスしてきました。

この両経験から、転職者の役に立つ体験談とヒントを紹介したいと思います。

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