面接官が語る「楽しいことは楽しそうに言わないと!」
- 執筆者の情報
- 名前:永井 成果(仮名)
性別:女性
現在の年齢:47歳
面接の経験人数:約500人
面接経験時の役職:-
企業・業種:-
今回の記事の目次
緊張より気を付けたいこと
面接はまさに「まな板のコイ」状態なので、緊張するのは当然です。面接官から見ると応募者が緊張しているかどうかは手に取るようにわかります。
ただ、応募者の緊張はある程度理解しており、多少は割り引いて観察しているので応募者がよく心配する「緊張しているのを見られ、面接は失敗だった」は、そう決めつけることでもありません。
今回の体験談は、多少の緊張は構わないが、むしろ感情表現だけは面接官にしっかりと伝わるようにしよう、という内容のものです。感情表現とは、「楽しい話は楽しく語る」ということです。
それがないと、せっかくの自己PRも無味乾燥な「朗読」になってしまいます。
さて、その時の募集は営業職で、できれば数年の営業経験のある人を期待していました。その日面接した数人はどの人も当社の基準に程遠く、面接官3人とも少し疲れ気味でした。
そこへ入室してきた次の応募者は、身長もそこそこある精悍なスポーツマンタイプでした。
緊張しっ放しの好青年?
実際、先に目を通していた履歴書には大学時代のスポーツ経験や国体級の戦績が書いてありました。職務経歴書には業界こそ違え、3年間の営業活動の詳細が丁寧に書いてあってちょっと楽しみな応募者でした。
面接ではいろいろ尋ねてみたい点があり、彼が入室してきたときの好印象には正直ほっとしました。
いざ面接官の正面に座り、自らの名前と簡単な紹介をした時、ちょっと口元がこわばっているような気がしましたが、まったく気になりませんでした。
「〇〇さん、今日は私どもの面接にお越しいただきありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。今日は真夏日の予報が出ていましたが、こちら到着されるまで、大変暑かったんじゃないですか?」
と、まずは緊張をほぐそうと、にこやかな表情でイントロ的な質問を軽く投げてみました。
「はい、よろしくお願いいたします・・・。」
「真夏日予報で暑かったのでは?」という投げかけの“返し”も欲しかったのですが、堅い表情は変わらず私的にはちょっと無視された感じで、とりあえずの返事だけ返ってきました。
普通、営業経験があったなら気候の挨拶的な会話には、「そうですね、でも暑さには強い方なので大丈夫です!本日はよろしくお願いいたします」といったように適当に言い返すものですが、けっこう緊張しているのかなと感じました。
ツボにはまるとスラスラと答えられる
「はい、ではさっそくですが、いくつか質問をしたいと思います。〇〇さんの履歴書を拝見させていただくと、大学時代はテニス部でかなり活躍されておられたようですね。このあたりを紹介していただけますか?」
「はい、わかりました。テニスは中学時代からやっており、高校時代は国体にも出場しております。大学時代は関東大学選手権で個人戦の入賞歴もあります。私の大学のテニス部は全国レベルでも有名で、団体でベスト8以下になることはありませんでした。具体的な成績としては・・・以上、就活でクラブを引退するまでテニス一色の大学時代でした」
最初の質問が一番話しやすいところだったのか、心配していた緊張もさほど邪魔にならずスラスラと話してくれました。
文字通りスポーツマンとして充実した大学時代を送ったようで、履歴書にある数々の成績も彼の言う通り素晴らしいものでした。
これなら大丈夫かなと思い、重ねるように追加質問をすることにしました。
「ありがとうございました、なかなかのテニスの戦績ですよね。中学時代からだと約10年近く打ち込んでこられたわけですが、では次に、その中で一番辛かったこと、そして逆に一番楽しかったことについて、それぞれ教えて下さい」
楽しかったこと?何だろう?
「そうですね、一番辛かったことは毎年恒例の夏の強化合宿ですね。体力強化が目的の合宿なのでラケットを持つことより基礎トレーニング中心で、炎天下での走り込みや砂地での体力作りを毎日やっていました。
逆に楽しかったことですよね?う~ん、何だろう?叱られてばかりいましたからね・・・。それまでの先輩が作った過去の成績がすご過ぎたので、なかなか到達できない焦りみたいなのがありました。まだまだって感じでしたね」
夏の強化合宿は本当に辛かったようで、緊張するというより「どんどん暗くなっていく」という感じでした。そして、もう一つの質問「楽しかったこと」が何も出てこなかったのが意外でした。
確かに目標がベスト4か決勝リーグだったかもわかりませんが、彼にとったら不満足な結果だったのでしょうか?あくまで学生スポーツなんだからって思ってしまいました。
面接質問の答えと言う意味では、的確に答えており申し分ないのですが、私にはこの「楽しさのない表情」が気になって仕方ありませんでした。
そこで、話を一転、前職の仕事内容に切り替え営業活動の内容や営業成績について質問してみました。
「ところで話は変わりますが、前職でやっておられた営業活動の内容と営業成績について教えて下さい。」
「はい、前職の仕事は職務経歴書に書きましたように、アパレル業界で量販店向けに自社ブランド商品の売り込みをかけていました。ライバルブランドに食われているシェア回復が目的でした。50%は取り戻せと言うミッションだったのですが、もともとのブランド力の差もあり20数パーセントがやっとでした。自社のブランド政策に対していろいろ提案したのですが、なかなか聞き入れてもらえず、今回、転職を決意した理由もその辺にあります。」
やりがいや達成感から来る“働く楽しさ”はないの?
「結構、苦労されたようですね。上司や関連部署ともかなりやり合われたのですか?」
「そうですね、企業体質があるかもしれませんがブランドのライセンス元への遠慮があったのかもしれません。途中から、そもそものライバルブランドへの作戦の立て方が間違っているのかもしれないと思うようになりましたね。」
「なるほど、逆に仕事を通じ達成感のあったことはいかがでしょうか?」
「う~ん、営業成績は他の営業マンと比べて真ん中ぐらいでしたが、予算そのものは8割ぐらいできていました。特にチームとしてはだいたい目標を達成していました。ただ、それが達成感と言われるとちょっとそこまで言えるものはないですね。」
「チームと言えば、前職では部下を3人持っておられたのですよね。チームで目標達成したり時に打ち上げやったり、何か楽しいことを企画して職場のムードを盛り上げることなどはしなかったのですか?」
この質問は、ここまで読まれた方はほぼ気付かれたと思いますが、学生時代の部活動で「一番楽しかったこと」を聞いても何も答えが返ってこなかったことがずっと気になっていて、切り口を代えた同一質問だったのです。
しかし、期待した答えは返ってきませんでした。
まとめ
この応募者には面接のほぼ最後あたりで「趣味や好きなことは?」という質問をしました。この答えも、答えらしい答えは返ってきませんでした。
趣味はテニスを今も続けているといったものの、決して楽しんでいる風には聞こえませんでした。
また、好きなことは映画鑑賞を楽しんでいると一応答えてくれましたが、たとえば好きな映画のジャンルや俳優について尋ねても「特に・・・」という返事でした。
たとえば好きな女優がいて、その映画は絶対欠かさず見ているとか、最近見た映画についてあれこれ楽しく話してくれれば救いようがあったかもしれません。
彼の最初の印象と履歴書は、確かに「一見好青年」で私たちの興味は一気に上がりましたが、残念ながら不採用とした最大の理由は「楽しくない人」でした。
面接だから緊張もするし、ニコニコと自分をPRできるわけではありませんが、何度か配慮して聞き出そうとした「楽しかったこと」について、何も語れない彼の性格は、入社後の働きぶりを想像した時、どうしても敬遠してしまう結果となりました。
これは緊張による表情の“こわばり”とは違い、持っている“心構え”によるものかもしれません。転職を決意し、新たに会社生活を再出発する時は気持ちの切り替えが一番重要です。
前職からひきずっているものがあったり、自分の生き方に迷いがあったりする人は、転職面接でこんな質問で見透かされてしまうので十分注意する必要があります。
この記事の筆者
永井 成果(仮名)
企業で何人も転職者の面接をしてきました。
その後、私自身が転職し、今度は反対にその経験から転職者を支援する仕事もしました。
企業の面接経験では、こんな人は絶対受からない、逆にこういう人は非常に好感を持たれ面接をパスできる人だというのがよくわかり、一方、支援する仕事ではそれを転職者にアドバイスしてきました。
この両経験から、転職者の役に立つ体験談とヒントを紹介したいと思います。