保育士転職を繰り返してしまう場合の対処法
いまや昨今の待機児童問題を背景に、保育士はどこの保育園からも正に“引っ張りだこ”状態にあります。
引っ張りだことは、つまり職場選びには困らない状況といえるわけですが、だからといって簡単に“自分にとってより良い仕事先”が見つかるとは限らないのが保育業界です。
元来、保育業界は他の業種と比べて諸々の待遇面などが劣るといわれることが多いですし、現実の業務においても随所で大きな苦労を伴うことがある仕事です。
結果として、残念ながら転職を繰り返してしまう保育士も多いのが実情なのです。
今回は、実際に転職を繰り返してしまっている保育士はもちろん、これから転職を考えている保育士に向けて、自分にとってよりよい職場選びを可能にするための方法を解説します。
- 筆者プロフィール
- 名前:諏佐諒次
保育業界専門の転職エージェントに勤務
転職経験:2回
現在の年齢:29歳
待遇面を事前にチェックする方法
保育士が転職を繰り返しやすい原因のひとつに、先に挙げた通り「待遇面の低さ」が挙げられます。
保育士は一般に他の業種よりも働く上での諸条件において見劣りする部分が多いとされ、そこに嫌気が刺して離職してしまう方が後を絶たないのです。
ひとくちに待遇といっても様々ありますが、一番の問題点はズバリ給与面です。
給与があまりに少ないと、モチベーションの低下のみならず、生活の維持すら危うくなってしまいます。
恵まれた給与をもらっている保育士は残念ながらとても少ないのが現実ですが、事前に得られる情報で、転職先の給与の実態はきちんと把握しておきたいところでしょう。
給与は、求人票などで当然明記されている部分ではあります。
しかし、保育士の給与は他の職種よりも複雑な体系となっていることがあり、事前の情報での試算と、実際に手にする金額にずれが生じることが往々にしてあるのです。
これに関する一番の理由は、月額給与が「基本給」とそれ以外の“各種手当”で構成されていることが多いということです。
各種手当とは、資格手当や特殊業務手当など、園ごとで様々な呼称があります。
月額給与が基本給以外に様々な手当に分解されていることの問題は、一般に賞与、つまりボーナスは「基本給」のみをベースとして算出されていることにあります。
基本給が月額給与に占める割合が低いと、賞与が思っていたよりもずっと少なかった、ということにもなりかねません。
つまり、求人票の給与欄に「月額給与」の金額のみ記載があり、内訳が明記されていない場合は、その点について園へ確実に尋ねるのがよいでしょう。
お金のことを聞くのは気が引けるという方も多いでしょうが、先に述べた通り、給与は生活に直結します。不明瞭な点は、恥じることなく確認してください。
労働時間の事前チェック方法
労働時間の多さも、保育士が離職する大きな理由のひとつです。
保育士の仕事は子どもを預かり、生活の世話をするだけではありません。
書類作成といった事務仕事も日常的にありますし、イベント前などは飾りつけなどの膨大な準備作業をこなさければなりません。
結果として、夜遅くまでの残業、あるいは休日出勤などを余儀なくされる場合も多いのです。
そういった労働時間の実態について、事前に把握するにはどうしたらよいでしょうか。
求人票において、平均残業時間の明記は必須項目ではありませんし、正確な実態を開示しくれる園は残念ながら多くはありません。
そのような場合は、職員の人数や配置について確認することが有効です。
単純ではありますが、やはり子供の人数に対して職員の数が少なければ、その分ひとりの保育士に係る負担は大きくなります。
認可園であれば各年齢の子どもの数に応じた保育士の人数(配置基準)が定められているので、そこを下回ることは基本的にありませんが、保育士の内訳においてパートの割合が高いと、やはり正職員の業務負荷は厳しいもの
となります。
労働時間の実態をなるべく推測するには、「保育士が何人いるか」「そのうち、正職員とパートの比率はどの程度か」といったことを、園にきちんと確認するのがよいでしょう。
人間関係の事前チェック方法
保育士の転職理由で、給与や労働時間と同じくらい多いのが「人間関係の悩み」です。
保育士は何といっても女性の割合が圧倒的に高い職場です。
男性からすると華やかなイメージがあるかもしれませんが、女性だらけの環境というのは、想像以上に複雑な感情が入り乱れる場なのです。
しかし、人間関係は給与とは違い、いわゆる「労働条件」には含まれないもので、求人票などでは事前に判断がしにくい要素です。
では、職場内の人関係を予め知るには、どういった方法が良いのでしょうか。
例えばその職場が「知人の保育士の紹介」によるものであれば、現に勤務している知人などからリアルな情報をことが可能です。
また、直接の知人がいなくとも、専門学校卒業の保育士であれば“ヨコのつながり”がある方も少なくないので、そのようなネットワーク豊富な保育士であれば、気になる園の内情を知ることもできるでしょう。
ただし、全くツテがない園に関しては、“直接園に聞く”のが確実です。
とはいっても、面接の場で「そちらの園の職員間の人間関係はどうですか?」などと聞いても、「悪いです」と答える園はまずありません。
つまり聞き方に工夫が必要で、例えば「どのくらいの年代の方が働いていますか?(例えば20代しかいないようだと、早期に退職する方が多いと考えることもできる)」「男性の保育士はいますか?(傾向として、男性保育は
女性保育士間の人間関係の潤滑油になるケースが多い)」といった質問の方法が挙げられます。
なお、今のご時世だと、インターネットで気になる園の情報を仕入れることも不可能ではありませんが、やはりネットの情報は不確定要素が強いので、あまり信頼を寄せない方が良いでしょう。
繰り返す人はどうするべき?
先に述べた通り、保育士は離職率が高い職種で、転職を繰り返す人も多いです。
転職を重ねてしまう保育士は、どのようにして「安住の地」を見つけたらよいのでしょうか。
何よりも重要なのは、転職を考えたときに、「現在の職場の何が不満なのか」「転職先の職場に何を求めているのか」をきちんと整理しておくことです。
全国どこを見渡しても、お金も良い、残業もない、人間関係も良好、といったように、すべての条件が完全に満たされた職場はめったにありません。
つまり、職場を選ぶということは、何かしらの妥協が求められるということです。
その前提を理解していなければ、ささいなことで職場に嫌気がさし、園から園へと転職を繰り返してしまうことになりかねません。
転職が頭をよぎったときは、まずはその理由を明確にし、それは本当に今の職場内では解決不可能なのか、よくよく考えてみる必要があります。
それでも転職を、という場合は、「絶対に譲れない条件」を設定し、その条件が満たされる園が見つかるまでは転職しない、というくらいの心構えをすることも重要です。
ただし、その条件以外のことについては、望む環境に満たなかった場合でも、目をつぶることも受け入れなければなりません。
その見極めと、ある程度の妥協を許容しなければ、転職のループからは抜けられないでしょう。
この記事の筆者
名前:諏佐諒次
保険業界においてバックオフィスや営業など、様々な職種で7年間勤務。
その後、保育業界の転職エージェントを約1年間経験。
多くの保育士から転職相談を受け、よりよい職場を提供できるよう、転職理由の根本の把握に努めた。
現在は民間の教育機関の運営に携わり、主に人事関連の業務を行う日々。