新卒の入社と転職の入社の違いとは
正規雇用の入社には、新卒入社と中途入社の二パターンがあります。
私はこれまで3社ほどの企業で人事担当として、このどちらにも関わってきた経験があり、現在は転職エージェントとして、どちらにも就職支援を行っています。
今回は、新卒入社と中途入社では、どのような違いがあるのかといった点をご紹介できればと思います。
まずは
『新卒入社で企業が期待すること』
『中途入社で企業が期待すること』
最後に『この二つを比較しての総括』について、お話します。
今回の記事の目次
新卒入社で企業が期待すること
新卒採用には企業規模や企業の社風が大きく関係していて、期待することが違います。
企業規模は、
- 大手
- 中小(零細を含む)
- ベンチャー企業
と大きく3種類に分類することができますが、まずはベンチャー企業からお話します。
ベンチャー企業が新卒入社に期待すること:高い能力
ベンチャー企業は新卒入社の選考基準を高く設定していることが多く、選考内容が非常に手厚く設定されています。
また、面接では見抜けない学生の本質を見極めることを目的として、その企業で働く従業員も参加して会食を行うこともよくあります。
つまり、ベンチャー企業は人事担当者だけではなく、全社一丸となって新卒採用を行うのです。
新卒入社に相当期待していることが伺えるかと思います。
ベンチャー企業は従業員が少ないため個人に与えられる業務量や責任が大きく、裁量のある仕事に就くことが可能です。
人員的な問題から育成期間を設けることができず入社してすぐに大きな仕事を任せる必要があるために選考基準を高く設定しています。
ベンチャー企業が新卒入社に期待すること:統一感
先ほどベンチャー企業は全員参加型の新卒採用とお話しましたが、この採用活動を活用して、企業の理念浸透や全社的な交流を図っているのです。
これには企業が拡大すると共に労使一体型の経営が薄れ、一体感のない組織となってしまうことを早期から防ぐ目的があります。
ベンチャー企業の創業者は、かつて労働者として働いていたケースが大半で、企業規模が大きくなればなるだけ修正が難しくなることを知っています。
その意味では、新卒採用の全員参加型の仕組みは理にかなっていると思います。
新卒入社の採用に従業員が関わると、新卒入社した人に対して愛着が湧きモチベーションにもつながるため、そういった意味でも有効な手段です。
ベンチャー企業が新卒入社に期待すること:理念浸透
新卒入社の方は社会人経験がない、まっさらな状態で入社します。
他との比較対象が一切ありませんので、ベンチャー企業としては企業文化の中枢的役割として期待をしています。
2~3年後、新卒入社者が成長して課長や部長クラスに着任した場合はマネジメントツリーとしても機能します。
さらに、確実に文化を一本化できたり、末端まで創業当時の理念を浸透させたりすることが可能となります。
期待通りの業務成果を出せなくとも、理念浸透や企業文化に役立ってくれれば十分な効果があると判断されます。
業務量や裁量も、大手企業で考えると数年経験した従業員が担当するべき内容であるため、仮に期待通りでなくとも給料が安い新卒者にさせる仕事として費用対効果は十分な訳です。
大手企業が新卒入社に期待することとは?
大手企業はベンチャー企業企業と比べると、新卒入社に即戦力としての期待はしていません。
どちらかと言えば、数年後の活躍を期待している形になります。
ベンチャー企業は入社数年後に退職してキャリアアップする人が多く、定年制度や退職金制度を作る必要もないのですが、大手企業は定年制度や退職金制度がある企業が大半ではないでしょうか。
若手社員が少ない企業は、将来的に技術やノウハウを踏襲できない状況に陥る可能性もあります。
この課題を解決するために、入社3年までは大きな結果を出さずとも、企業を去る方々の技術やノウハウを受け継ぐ役割として期待しているのです。
もちろん、数年後には十分な能力やスキルを身に付けていることが多いため、それ以降の活躍も期待はしています。
大手企業は数年後を視野に入れた採用をしているため、新卒入社の新卒採用に全員が参加することはあまりありません。
中途入社で企業が期待すること
中途入社の場合、新卒入社と違い企業規模や社風に関係なく、求めることや期待することはほぼ同じです。
まずは企業規模に関係なく、企業が中途入社に期待する共通事項をご紹介します。
やはり即戦力として!
どの企業も中途採用を行いますが、その背景には即戦力としての期待があります。
中途入社の場合はビジネスマナーやPCスキルのような教育工程を持つ必要がなく、入社してすぐに現場に配属して戦力として業務に携わることができます。
そのため、中途入社の場合はどのような経験や実績を持つのかが非常に重要視されます。
ですから、新卒入社と比べても入社条件の給与や役職は当然高いものになっています。
ただ、新卒入社のように選考過程を特別重視している訳ではないため、入社して数か月間は試用期間として入社条件に適正かどうか判断する期間を設けています。
もし、適正ではないと判断された場合は、給与や役職が下がったり雇用終了といった厳しいことにもなりかねません。
私が人事担当や転職エージェントとしての経験上、実際にこのような結果となる求職者もいました。
労働基準法にはノーワク・ノーペイという原則があり、仕事をしないのであれば給料を出さなくても良い(給料を下げても良い)というものがあります。
高い給料には高い期待、低い給料には低い期待があるわけです。
企業が中途入社に期待しないこと
少し視点を変えて、企業が中途入社に絶対に期待しないことをご紹介します。
それは業務怠慢はもちろんのことですが、企業文化や企業理念から外れることです。
中途入社が理念や文化からずれ、やがて企業への不満となり、飲み会などで新卒入社の者に愚痴をこぼしたらどうなるでしょう。
本来最も期待すべき新卒入社が、中途入社に最も企業が期待しないことを浸透させるとことになり、それまでの努力が無駄になるのです。
たった1名の中途入社だけでも、この現象は可能性としてはあります。
ですので、新卒入社が多い企業は、中途入社にはこの理念浸透や文化含めた一体化になじめるかどうか気にしますし、これを最も期待しません。
どれだけ優秀でもこの必然性がなければ、選考から漏れる可能性が高くなります。
私も当事者として、中途入社により会社の文化が壊れ業績低迷という事態を経験したことがあります。
築くことは長期間、壊れる事は本当に一瞬です。
ベンチャー企業を中心に企業は中途入社に即戦力として期待する以上に、理念に染まることを強く求めます。
企業規模で中途入社に期待することが違う点
企業の規模が異なれば、マネジメントツリーの大きさや一つの部署や部門に在籍する人数も異なります。
大手企業の場合は一つの部署や部門の人数が多いため、業務的な即戦力の他にマネジメント能力を求めます。
しかし、ベンチャー企業は一つの部署や部門の人数が少ないため、マネジメント能力よりも業務としての即戦力に重きを置きます。
また、その他でも大手企業がマネジメント能力を中途入社に求める理由は、新卒入社との兼ね合いです。
先述の通り、大手企業は新卒入社を数年後を見越して採用しており、入社から3年程度は教育期間とすることが多いです。
3年間は配属されないということではなく、現場へ配属してOJT(業務を通じて育成する手法)により新卒入社を育成します。
その育成の責任は、部署や部門の課長や部長です。
新卒入社は経験や知識がありませんのでほぼゼロの状態から教育することが必要で、それなりのマネジメント経験がなければ新卒入社をダメにしてしまいます。
そのため、大手企業は、マネジメント能力を中途入社に期待するのです。
一方、ベンチャー企業では部署や部門のトップでなくとも、主任クラスでも経営視点を期待します。
経営視点とは視野が広く、経営的な視点を持って、業務に関われる視点です。
ベンチャー企業では経営資源が決して潤沢ではないため、一つのミスが取り返しのつかない事態を招くことがあります。
それを防ぐために、ベンチャー企業では、中途入社には経営視点を求めて、仮説思考や中長期的な観点で物事を進める能力を期待するのです。
よく聞く話ですが、大手企業出身の求職者が中途入社でベンチャー企業へ入社すると経営視点が乏しいため、短期間での活躍は難しいということは事実としてあるようです。
ベンチャー企業は確かに若い年齢から裁量のある仕事に就くことができます。
ですが、それ以上に経営視点が養えるため、判断と決断がより高い視点や広い視野で、経営視点に近い形で行うことができるのです。
新卒入社と中途入社を比較しての総括
新卒入社と中途入社で、同じ就職でも企業が求める内容や見られ方が違うことがご理解いただけましたでしょうか。
新卒入社については、特に企業の規模により期待することが異なります。
私なりに期待の違いの根底にあることは、『給料』だと思います。給料が高いか低いかにより、期待の度合いが異なります。
同じ中途入社であっても給料が高い人にはそれなりの見返りを企業は期待しますから、期待した結果よりも低ければ厳しい評価になるのです。
新卒入社の場合は給与という意味で期待は低いため、失敗したとしても『まぁ、新卒だしね』ということで、ある意味、甘い対応になります。
しかし、中途入社の場合は、新卒入社と同じ給料(同じ期待)ということは絶対にあり得ないことですので、失敗したとすれば、即降格や即降給という判断になるのです。
それと、中途入社で企業が期待しないこと(裏を返せば期待したいこととも言えるでしょう)に、転職先の企業理念や文化含めた一体感を乱すことです。
これは短期的に見ると大したことではないのですが、一つひとつ積み重なるととんでもないモンスターになるため、業績低迷に直結する経営的な問題に発展します。
企業によっては、中途入社で即戦力を期待するよりもはるかに大きいリスクと捉え、経営的なリスクヘッジとして一切中途入社を行わない企業もあります。
ベンチャー企業を経営している私の友人は、中途採用したことで一気に業績悪化した企業をいくつか知っており、新卒入社で文化を築く選択をしているとのことでした。
中途入社の方は給料が高い分期待が大きいのですが、企業含めた社会の責任は大きく、失敗すると負のリターンは大きくなります。
転職活動を行い内定が出て喜ぶ気持ちも分かりますが、本当の勝負は入社後です。
本当に内定をもらった企業で活躍できるのか、リスクをまず想定してから入社するかどうか判断された方が良いと思います。
内定が出て喜びその勢いのまま入社前に自問自答することなく入社して期待通りの活躍ができずに、厳しい結果を受けた求職者を私はたくさん知っています。
ぜひ、自分の判断が正しいかどうか、キャリアアドバイザーに相談するなり、友人や知人、または家族に相談してみてください。
ハッピーとなるはずの転職が、期待通りに働けず、最悪な事態を招くことにもなりかねません。
皆さんの、転職活動が慎重に、入社後の期待以上の活躍で最高の仕事人生になるよう祈り、今回はこれで話を終わりにしようと思います。