有料職業紹介とは?どんな仕組み?
現在の日本では転職が一般的になってきており、その方法たる転職エージェントの知名度は非常に高まっています。
転職エージェントという言葉自体はビジネス的な用語で、正式には有料紹介事業者と言います。
有料紹介事業者とは、法的に人材紹介事業を行う許可を受けた事業者です。
私も現在、転職エージェントとして活動していますが、当然法的に事業許可を得た有料紹介事業者というくくりに入ります。
今回は、有料紹介事業とは?どのような仕組みで運営されているのか、具体的にご紹介したいと思います。
有料紹介事業を行うために必要な準備
有料職業紹介事業を行う事業者は、都道府県労働局を経由して厚生労働大臣に書類を提出する必要があります。
職業安定法との関係性
職業安定法には有料紹介事業を行うために必要なルールが規定されており、それらの全てをクリアした事業者のみ有料紹介事業を行うことが許されています。
職業安定法の目的は、有料紹介事業の基準を明確にすることと労働者保護です。
求職者または労働者に仕事を紹介する行為には人身売買の可能性があり、厳密にルールが定められているのです。
特に注意いただきたい点は、有料紹介事業者はどのような内容であっても求職者から利益を得てはならないという点です。
これが、現在我々が無料で転職エージェントを利用できる理由となっています。
認可と許可の違い
国は有料紹介事業者に「認可」ではなく「許可」という高いハードルを設けています。
求職者の転職を支援する事業として、有料紹介事業の他に無料で紹介を行うハローワークのような事業もあります。
無料の場合は、利益目的ではないために、日本では許可という高いハードルを設定せず、認可というレベルでも転職支援を行っても良いことになっています。
有料紹介事業の許可基準
企業の貯金額
有料紹介事業の許可基準の一つは、財務的な観点です。
事業者の貯金が150万以上必要で、資産から負債を控除した額が500万円以上必要になります。
個人として考えるならば大きな金額となりますが、事業者と考えるとそれほど大きな財産基準がなくとも良いということになります。
事務所スペース
二つ目は、事務所スペースです。
事務所のスペースが20㎡以上であり、個人情報保護の観点から適切な空間であることが必要です。
20㎡ですので、一人暮らしの方が住む賃貸マンションやアパートよりも狭くて良いということになります。
経験年数など
最後は、その事業者そのものに関わることです。
職業経験が3年以上で、厚生労働省が指定する団体が主催する職業紹介責任者講習会を受講した者が必要な要件です。
この職業紹介責任者講習会は私も参加したことがありますが、座学のみのため睡魔との闘いになる非常に厳しい時間です。
この三つの基準をクリアして初めて有料紹介事業の申請を行政に行うことができます。
申請後、役人がオフィスに来社してオフィス環境や個人情報保護の配慮などを目で確認することになります。
違法の有料紹介事業者
大半の転職エージェントは健全な転職支援を行っていますが、中には少数違法の転職エージェントもあります。
そのような違法の転職エージェントからの転職支援を受けないようにしていただきたいと思いますので、いくつかご紹介します。
求職者に報酬を催促する
これが最もリスクであり、転職エージェントが最もやってはいけない行為です。
先述の通り、求職者から報酬を得る行為は法的に違反行為とされています。
しかし、コンサルティング料という名のもとに求職者から利益を得る仕組みを持つ企業があるのです。
自己分析など細かいコンサルティングは別途費用が必要という転職エージェントがありますが、この自己分析も当たり前の転職支援となりますので、ご注意ください。
オフィススペースが狭い、面談がオープンスペース
オフィスの広さにも一定の基準を設けていますが、中には明らかに基準より狭い転職エージェントがあります。
また、面談スペースが個人情報保護に配慮されておらず、オープンスペースという場合もあります。
この場合は軽微な違反で、改善すれば問題ないのですが、このようなオフィス環境を持つ転職エージェントは良い転職支援を期待できないことが多いです。
個人情報の漏えいリスクが大きいですので、遠慮なくここでの面談は不可である旨を伝えることが良いと思います。
面談が社外の場合
これは本来禁止されているものですが、求職者の意思によっては容認されています。
この場合、誠実な転職エージェントからは『法的な理由で本来は、面談は自社オフィス内となります。社外は個人情報漏えいのリスクがありますが、大丈夫ですか?』という一言が必ずあります。
また、社外面談の他に電話での面談形式を取ることも状況によっては容認されているものです。
前提条件は求職者の自由意志ですが、社外面談や電話面談は違法行為ではありません。
有料紹介事業者許可の失効
転職エージェントは、一定の期間ごとに有料紹介事業者許可を更新する必要があります。
中には更新を行っていない転職エージェントもあり、この場合は転職エージェントとしての活動ができないので、求職者としても注意が必要です。
また、かつて転職エージェントで実務をしていた方が独立して、前職の許可を独立後も利用する転職エージェントもいると聞いています。
このような転職エージェントへの登録は控えることが良いです。
知識や経験がどれだけあっても、転職エージェントは法的に許可を受けた有料紹介事業です。
求職者に独占を求める
転職エージェントは、無料でいくつものサービスを受けられる点がメリットです。
しかし、中には他の転職エージェントを利用することを禁止するような場合があります。
求職者の自由意志で特定の転職エージェントだけを利用することは問題ないのですが、転職エージェントからこのような話をするのはあってはならないことです。
実際、私の後輩がある転職エージェントにこのような打診を受けたことがありました。
他の転職エージェントに利益を持って行かれないようにするために独占を打診する転職エージェントは、転職支援もゴリ押し型であるため、良い転職成功は見込めない可能性が高いです。
有料紹介事業者の仕組みについて
後半では有料紹介事業者である転職エージェントの仕事内容や仕組みについてご紹介したいと思います。
中には転職エージェントを利用すると絶対に転職できると誤解している求職者もいますが、転職エージェントを使ってできることにも範囲があります。
有料紹介事業者の顧客
有料紹介事業者である転職エージェントには、求職者と企業という二つの顧客が存在します。
転職エージェントからすると、このどちらが欠けても利益にはなりません。
転職エージェントは、転職支援の結果となる利益を紹介手数料という形で企業からもらうことになっています。
どの事業も同じだと思いますが、利益源である顧客側の視点で判断や決断することが多いです。
紹介手数料は、求職者の入社を決めなければもらえませんので、転職エージェントとしてはどうしても入社してほしいと思うのが普通です。
この仕組みを理解していなければ、転職エージェントの口車に乗せられて入社したくもない企業に入社してしまうというオチになります。
営業担当とキャリアエージェントは違う
転職エージェントは、ワンフェイス型とツーフェイス型の二つの仕組みで転職支援を行っているのですが、大体の転職エージェントはツーフェイス型を採用しています。
ワンフェイス型とは、企業の営業と求職者のキャリアアドバイザーが同一人物で対応する仕組みを言います。
ツーフェイス型は企業の営業と求職者のキャリアアドバイザーがそれぞれ業務を分担して2名で行う仕組みです。
ツーフェイス型を採用している転職エージェントは大手や中堅クラスの転職エージェントに多いです。
キャリアアドバイザーの担当人数
転職エージェントは、1名のキャリアアドバイザーが1名の求職者のみの転職支援をしているわけではありません。
転職エージェントには万単位の求職者が登録しています。
多い場合は、1名のキャリアアドバイザーは30人や40人の求職者を同時に担当して転職支援を行っています。
その他、希望条件に合致した求人は全て紹介してくれると思っている求職者がいますが、これも間違いです。
求職者に希望条件があるように、採用する企業にも希望条件があります。
そのため、両者の条件が合致した時のみ求職者に求人を紹介する仕組みになっています。
求職者の中には『期待したレベルの求人数がなかった』という声を聞きますが、これは厳密には「紹介できる求人がなかった」ということです。
面接対策は有料紹介事業者のサービス範囲を超えているのでは?
法令上、有料紹介事業者としての転職エージェントのサービス範囲は特に定められている訳ではありません。
そのため、それぞれの転職エージェントでサービス範囲は微妙に異なります。
その中で、面接対策として過去の面接内容を事前に共有されることがあります。
転職エージェントは求職者が入社しなければ企業からの紹介手数料はないので、求職者が内定を取りやすい環境を作っているのです。
私は求職者時代にこの仕組みを理解していなかったため、『面接の質問まで教えてくれるなんて、なんと良い転職エージェントなんだろう』と感動して、その転職エージェントだけを使うと決めてしまったことがありました。
しかし、いろいろと調べるうちに『自分はお金もうけの道具にされてるんだ』と冷めたことがありました。
この仕組みは仕方ないことですし、求職者にとって内定の近道になることは間違いありませんので、納得しなくとも理解はした方が良いと思います。
転職エージェントを利用すると内定確実?
中には、転職エージェントを利用すると絶対に内定が出ると大きな勘違いをしている求職者がいますが、あくまで転職支援を円滑に行うサポート役であることを理解しましょう。
転職エージェントの本質的な存在意義をはき違えると、求職者にとって転職活動がストレスに変わることがあります。
まとめ
求職者の方は、転職エージェント業界の仕組み・存在意義を理解することが必要です。
理解することで転職エージェントと深い連携により転職成功の近道にもなるでしょう。
また、何より転職エージェントは民間の営利団体である以前に法的な許可を得た有料紹介事業者であるということも理解が必要です。
今回の紹介内容が、ぜひ求職者の皆さんの財産となり転職活動に生かしていただければと思います。
皆さんの転職成功を祈り、これで話を終わりにしようと思います。